マニキュアを塗るメイス

 ソファに座って、メイスに成すがままにされる。メイスに指を支えられ、マニキュアを塗られる。黒だ。なんで、と聞いたら「趣味」といわれた。
(塗ってるとこ、見たこともないのに)
 少なくとも、指に塗ってるところは見たことない。爪は爪だ。メイスの爪は、ずっと前から見たときと変わらない。じゃぁ、足の爪にだろうか。ペディキュア? そう思ってメイスの足を見てみると、黒いマニキュアが塗ってあった。もう片方は床に着いているから、スリッパで見えない。
「マニキュア、塗るの?」
「たまにな」
「いつ?」
「ペディキュアに使ってる」
 じゃぁ、足に使ってるのを今、指に使っているということか。少し傾いたハケが、爪の端も塗る。
「なんか、息がしにくい」
「そうか」
「これ、よく使ってるの?」
「あぁ、足の方にな」
「腐らない? 息ができなくて」
「フッ、そんなことはないさ」
 あ、笑った。メイスの瞼に塗ったアイシャドウもよく見える。そんなにおかしかったのだろうか? 少なくとも、長期間息ができなくて腐り落ちそうだ。今すぐでも落としたい。
「取っちゃだめ?」
「そんなに嫌か」
「うん、落ち着かない」
「慣れないか?」
「難しそう」
 塗った先から、塗ってないのと違う感触が生まれる。自然のままだと空気に触れるのに、塗った先から乾燥していく。スゥっと、爪の水分も奪われそうだ。
「マニキュアとかペディ……って、皆こうなの?」
「さぁな。探せば、あるかもしれん」
「じゃ、今度探してみようかな」
「そうか。カラーのレパトリーは、少ないと思うがな」
「そんなに?」
「そりゃそうだ。その分、高いからな。作る量も限られる」
「そうなんだ」
「色々と試してみたければ、こういうのに限る」
「ふぅん」
 メイスって、意外と物知り。そう零したら、少し間を置いて「どういう意味だ?」と返される。
「メイクとか、化粧水とか、色々と物知り」
「バンド、いや必要に応じて知識を仕入れただけだ。お前も、こういうのに興味が出れば、自然と身に付く」
「ふぅん」
「ほら、もう片方も出せ」
「ん」
 催促されて、左手も差し出す。右手をブランブランと遊ばせば、爪の息苦しさは変わらない。
(興味を持てば、か)
 相変わらず、メイスは私の爪にマニキュアを施している。
「楽しいの?」
「あぁ」
「人の爪に塗るのが?」
「お前の爪に塗るのが、だ」
 簡単にそう返される。私の爪に塗るのが、か。でもメイスの爪に塗った方が、マニキュアの色も映えると思う。指も細いし、爪もほっそりと細長い。まるで、女の人の爪みたいだ。
「じゃぁ、今度いいのを見つけたら、メイスに塗ってみるね」
「あぁ。そうしてくれ」
 交換条件を出したら、意外と早いことに、あっさりとそう返されたのであった。


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