コゲコメ‐二人は生命体

「あれ」
 帰ると、部屋に変なのがいた。ゲーラとメイスに似ていて、二本の足で立っている。頭がデカい。二頭身だ。ゲーラを掴んで擽ると「ゲゲゲ!」と笑って火を吐く。やりすぎた。まだ怒ってるゲーラを置いてメイスを擽ると「メメメ!」と鳴いて全身発火をした。手を叩く。こちらも嫌なようだ。トンと解放してからゲーラを掴む。ペラッと上着を捲るとすごくゲーラが抵抗をした。
(ふむ)
 どうやら服と一体化している。毛皮みたいなものだろうか? バタバタと暴れるゲーラに、メイスがピョンピョンと跳ねる。「メメメ!」と鳴いて手を伸ばしてるところから、助け出したいのだろう。メイスも手に取る。そうしてキッチンに移ったら、さっと二人は隠れた。暴れるゲーラを押さえて、メイスがシュガーポットの後ろに隠れる。砂糖、甘そうだな。そう思って蓋を開けたら「ゲゲ!」とゲーラが反応した。シュガースプーンに一個掬って、小人に渡す。ゲーラは目を輝かせて「ゲゲゲ!」と両手を広げ、メイスは恐る恐る「メメメ」と鳴いてツンツンした。シュガースプーンをテーブルに置く。キッチンテーブルの上で、二匹は砂糖を調べ始めた。ゲーラは大胆に齧りつき、メイスは削っては手で食べている。性格が出てるなぁ。そう思いつつ、平たい鍋を用意する。この体長から見れば、底が少しある方がいい。それか底になにかを敷くか。
 キャベツを底に敷く。そこにお湯を注いで小人を入れて熱し始めれば完成だ。
 グツグツと鍋で煮込みながらお玉を回して遊んでたら、ゲーラとメイスが入ってきた。
「あっぢぃ。水、水」
「クソ、なんだって急に」
 熱くなったんだ、とメイスが零す。本当だ。すごい顔が真っ赤になってる。鍋の中で遊んでる小人を見ると「ゲゲ!」「メメ!」とかいってはしゃいでる。パシャパシャお湯の中を泳いで遊んでる。ついでに顔が真っ赤だ。当たり前である。弱火で煮込んでるのだから。
「あん? 変な声が聞こえねぇか?」
「いわれてみれば、そうだな。ななしがなにか煮込んでる方かっ」
 あっ、と二人が固まる。それもそうか、なにせ自分たちに似た小人が鍋の中で煮込まれているのだから。それも元気よく泳いで。ゲーラとメイスに似た小人は自分たちに似た大きな人を見て「ゲ?」「メ?」と首を傾げているし、二人に至っては顔を青ざめたり赤らめたりしている。
「お、おま」
 震えるゲーラの指が鍋を指す。煮込まれてる姿が嫌なのか、お玉でゲーラを掬おうとしたら後ろのゲーラが「あっぢぃ!!」と跳び上がった。対して小人のゲーラは「ゲ、ゲ!」と熱さに喜んでいる。
「これは?」
「それ、熱いんだろう? 俺たちがバーニッシュであった頃なら喜んでいる熱さだな」
「いぃいい、あっぢぃ!! 火傷しそうじゃねぇか! ふざけんな!!」
「ふざけるなといいたいのなら、こっちにいって」
「さっさとソイツを鍋の中から出せ!!」
「はいはい」
 あまりにも泣きそうな目で求めてくるので、鍋ごとゲーラをシンクに移した。じゃぁと水を注ぐ。水道水の滝に、ゲーラは喜んでいるようだ。メイスの手に抓まれたそれも、ヒョイッと鍋に投げ込まれた。小人の二人は未だに、鍋の中で遊んでいる。
「はぁ、暑さが和らいでいったぜ」
「本当だ、不思議だな。さっきまでえらく暑かったというのに」
「もしかして、お風呂に入っているような感じ?」
「OHUROだぁ?」
「お湯に浸かったり、サウナみたいな感じ」
「あぁ、熱気が顔に四六時中かかっているような感じはあったな」
「もしかして」
 滝登りをしようとしているゲーラを掴む。ずぶ濡れだ。軽く袖で水気を拭ってやると、ゲーラが不思議そうに自分の顔を触った。ちょうど私が拭いている場所である。小人のゲーラの髪を拭くと、不思議そうに自分の頭を触る。
「どうした?」
「い、いや。なんでもねぇ」
 そう不思議がるゲーラを他所に、手の中のゲーラは「ゲェ」と目を細める。気持ちよさそうだ。服は当然の如く、捲れない。シャツ越しに腹を擽れば「ゲッ!」と小人は笑った。まるで赤ちゃんのようである。対してゲーラは「フッ!」と自分の腹を押さえて蹲った。
「ッ、フッ、ぐぅ。ククッ、ぷはっ」
「どうした? 急に笑いを堪えて。もしや」
 メイスも気付くところがあったのか、自分に模した小人を拾い上げる。メイスはメイスを見上げて「メ?」と首を傾げている。小人の知識はそれほど高くはなさそうだ。腹を擽るのをやめて顔を撫でると「うっ」とゲーラが呻いた。
 こしょばいのがなくなったからか、ゲーラが腰を上げる。
「変な感じがするぜ」
「あぁ、ちょうどコイツを触った部分からだ。感覚が、リンクしているのか?」
「かも」
 そういうとバッとゲーラが自分の頬を押さえる。私が小人の頬を揉んだからだ。私の勘もメイスの考えも、当たってそうだ。
(けど)
 さっきまで抵抗を見せたり暴れてたりしてたのに、今はしてない。軽くメイスの手にあるものもしてみると、同じだ。全身発火して手を叩いてこない。
「どうしてだろう。濡れているのかな」
「あん?」
「全身発火をしたり、火を噴いたりした」
「怪獣か? いや、心当たりは一つある」
 メイスが顎を支えて腕を組んだ一方で、ゲーラはジト目で自分の小人を見る。
「バーニッシュだ。バーニッシュなら可能だろう」
「はぁ? もうとっくのとうに消滅したって話じゃねぇか」
「プロメアなら、な」
「じゃぁ、『じげんのゆがみ』とやらがまた起きたってこと?」
「次元の歪みな」
 発音と単語の間違いをメイスが直す。
「どこをどうやって俺たちとリンクしたのかは知らんが、プロメアの共感がこのようなものを生み出した可能性がある」
「じゃぁ、またあのようなことが起きるってぇのか? 三十数年前の世界大炎上みてぇなことがよ」
「それは大変だ。なら、これはその予兆?」
「かもしれんな。少なくとも、プロメアという生命体が俺らではなく、このような生命体を以て具現化したといっても過言ではない」
「へぇ」
「わけわかんねぇ」
「つまり、だ。プロメアが一個の生命体として独立したかもしれんってことだ」
「ふむ、それは大変なの?」
「まぁ、俺たちのしたことを考えりゃぁ大変だろうなぁ」
 なにせ、俺たちは理性あっての大惨事を引き起こしたからな、と。ゲーラがバーニッシュとマッドバーニッシュだった頃を思い出して伝える。なら、「もっと燃えたい」の本能に従順な生命体だとしたら、もっと大変なことになる。
 キッチンテーブルに解放された小人を見る。メイスはメイスと同じ格好で考え込んで、ゲーラは頭を抱えている。けれど、本人は腕を組んでいるだけだ。
「そっか。じゃぁ、これは? なんか、さっきと違うようだけど」
「はぁ? なにが違うってんだよ」
「怒らない」
 ツンツンとゲーラとメイスを突けば、キャッキャッと喜ぶ。さっきは嫌がってたのに。同じように服を捲ろうとすれば「きゃー」というように私の指を軽く押したり、首を傾げたりするだけだ。
 なんか、さっきとは全然違う。
「もしかして、本人が前にいるから落ち着いているのかな」
「そ、れは」
「気持ちがリンクしているんじゃないのか」
「ばっ、メイス!! こっ、馬鹿野郎!」
 なぜかゲーラが激怒した。小人の方を見れば、顔を真っ赤にして手で隠している。小人のメイスは不思議そうに、その顔を覗き込もうとしていた。本人を見る。ゲーラは怒鳴ってばっかで、メイスは訳の分からなさそうにゲーラを見るだけだ。
(なんだろう。この差は)
 もしかして、私の勘は外れてた? そう思いつつ、蓋を開ける。
「とりあえずこれ、どうする?」
「様子を見るしかないだろうな。ひずみ、だとしたら地震と同じで直るかもしれん」
「自然消滅ってヤツか。お、出ようとしている」
「あ、本当だ」
 でもリオみたいに足をジェット噴射機にしないので、瓶の口には届かない。
 瓶の中でピョンピョン飛び跳ねるゲーラとメイスを見る。あとでシルバニアファミリーの家やベッドを買って、そこで暮らさせようかな。
「けど、どうして私のはないんだろう。ゲーラとメイスのだけ?」
 そう不思議に思って振り向いたら、二人は顔を逸らしていた。ただ黙る。
「どうし」
「知らねぇ」
「時空のひずみに消えたんだろう」
 と強硬する姿勢に、追求できなかった。


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