畑の泥棒(まだゲーラが頭を取る前/前日譚よりもっともっと前の話)

 捨てられた畑があった。手入れはされてないようで、草ボーボーだった。唯一、残された作物が残した種で、自発的に生えた食べ物があった。近くにある小屋を見ても、誰かが入った形跡もない。近場にあった廃村から見て、バーニッシュ火災に巻き込まれて、だろう。
「酷く暴れたヤツもいたもんだな」
「そんだけ、腹が立ったってぇことだろ」
 と、ゲーラとメイスのコンビがいったことは新しい。けれども捨てられた以上、追われる立場である身は有難く利用させてもらう。廃村にあった使えそうなものは拾ったし、畑の雑草抜きも一通りやった。雨が降れば、水をやれるだろう。
「この分だと、トマトは甘くなりそうだな」
 とゲーラがそう漏らしてたことも記憶に新しい。そして、私たちが手塩をかけた畑がなぜか、荒らされてたのが昨日だ。なぜかトマトやリンゴ、もうすぐで食べられそうなものばかりが盗られている。見せつけるように、その食べかすが一ヶ所に集められていた。
「これは、野生動物だな」
「チックショウメェ!!」
 それからゲーラがボッと燃え出して自身を空へ向かう火柱としたのが、今日のハイライトである。メイスの指摘によれば、野生の動物が犯人なのらしい。「前からあったの?」と聞けば「いや、収穫時期を見て奪った、だろうな」とメイスがコメントを残す。なるほど。で、私も監視役に選ばれたと。
「大丈夫なの? 逆に現れる?」
「気配を上手いこと消せば大丈夫だ。なにせ、人が手入れした畑に入り込んだ連中だからな」
「クソッ、覚えてろよ野鼠どもめ!! 俺が丹心期待も込めて育てたトマトを奪ったこと、しかと後悔させてやるぜ!」
「育てたっけ?」
「少なくとも、野菜の成長過程を見守ったり雑草を抜いたり、などだな」
「俺たちが見ただけでも、充分世話したに入るだろうが!」
「あ、なにか動いた」
 その声だけで、ゲーラとメイスが急に黙った。さっきのいざこざはどこに行ったんだろう。こんな人の声があったというのに、草むらの動きは止まらない。ガサゴソと、動き続けている。
(日が明るいから、見やすいなぁ)
 夜だったら音だけで判断せざるを得ない。万が一、足元に転がってたカメラが生きていたのならば、その暗視ゴーグルでなんとかなるかもしれないけど。
「小動物か」
 ボソッとメイスがいう。草むらの動きから動物の体長を計ったんだろう。
「ケッ、肉が少ねぇ可能性があるな」
 全員分には足りねぇだろ、とゲーラがボヤく。既に食べる前提だ。まぁ、犯人確保のついでに食料ゲットとなれば一石二鳥だ。そんなことを小声で話していると、ついに犯人が草むらから出てきた。
「あっ」
「野郎! 消し炭にしてやる!!」
「待て、ゲーラ! 今は現場を押さえるのが先だ!! それからアイツらを焼くのも間に合う」
「クッ、そうかよ」
「パターンも見ることもできるからね。と、いうか」
 こんなにこしょこしょ話しても、あのでっかい動物はのっそのっそと畑に向かう。
「人に、慣れているのかな?」
「さぁ、どうだろうな。野良化したペットの子世代だとしても、そこまで遺伝子に残されるわけじゃない」
「っつーか、ペットじゃねぇだろ。普通に手近な野菜をもぎ取ったぞ、アイツ」
「あ、こっちきた」
 ってか、ゲーラ目良いな。手でヒサシを作りながら目を細めるゲーラの先を見ると、先の動物がコチラにやってきた。と、いうか。
「あれってなに?」
「あ?」
「なんの動物?」
「は? 知らねぇのかよ。グラウンドホッグだぜ。グラウンドホッグ」
「別名ウッドチャックともいう。グラウンドホッグデーという、春の訪れを予想する天気予報の占いにも使われるな」
「へぇ、変わってるね」
「伝承みてぇなモンだ。伝承」
「ダックスデーとも呼ばれるな。ダックス(アヒル)じゃないぞ? ガァガァと鳴かない代わりにキュウキュウだ。まるでプラスティックが喉に詰まったみたいにな」
「へぇ」
「しょうもねぇギャグをいうな! ガキにしかウケねぇだろ」
「しかし覚えやすくはなるだろう?」
「おいおい。どこに自慢する要素があるってんだ」
 ゲーラは呆れてるが、メイスのいうことは何となくわかる。ダックスはDuchs、ドイツ語でアナグマを意味する。でアヒルはダック(Duck)その複数形がダックス(Ducks)だ。微妙なイントネーションがわからなければ、どちらも同じような意味に取れる。意味のニュアンスではなく、発音のニュアンスで、とのことだ。
「で、あれはネズミなの? アナグマ?」
「リスだ」
「しかも、食える部分は少ないぜ? 冬眠前じゃねぇからな」
「ふぅん。詳しいね」
「北の田舎に行きゃぁ、嫌だって見るぜ。鳥の雛だって食う」
「わ、結構雑食じゃん。リスの癖に」
「リスも食うヤツはいるぞ。鳥の卵とかも」
「え」
「タンパク質確保のために手っ取り早いのは昆虫だが、一番栄養源が高いのが鳥の卵や肉だ」
「弱肉強食だからなぁ。普段捕食者に食われてる分、ここでやり返すっつー魂胆だろ?」
「そ、そうなのかな。あ、逃げた」
 バッと食べ物を置いて遠くに行く。「もう二度と戻ってくんな」とゲーラが嫌味を吐く。するとリスの四足歩行が戻ってきた。「食べ物を咥えてるな」と冷静にメイスがいう。
「クソッ、どこに隠し持ってやがった!?」
「どこかに貯蔵庫? みたいなのがあるのかなぁ」
「普段はイネ科の植物やクローバーを食べると聞くが。まぁ、ヤツらにとっては一年に一度のご馳走なんだろう」
「そうなんだ」
「なら野生に生えてるキノコやイチゴでも食えって話だろ!?」
「そんなのあるんだ」
 そう思ったら、急にリスが食べるのをやめた。ピッと二足歩行で遠くを見つめる。
「ところでさ」
「あぁ」
「仕留める? 弱肉強食。今なら私たちも捕食者だと思う」
「あー、そうだと思うぜ。俺たちも今じゃ、腹を空かしたバーニッシュだからな」
「だよね」
 とりあえずの同意を得られたので、シュッと細く炎を出した。小さく尖った矢にして、心臓を射止める。すぐに矢の熱で心臓を焼いたので、動かなくなる。数メートル走ろうとして、地面に倒れる。あ、頭。
「他のもいるか、捜した方がいいかなぁ」
「だな、血抜きもしないと」
「仕留めるなら今に越したことはねぇな。すぐにバレて寄り付かなくなる」
「逃げる?」
「な」
「とりあえず。肉の鮮度が落ちるから血抜きをしとくか」
「あ、今出ると他の動物が」
「いたら先に逃げるだろう」
「あ、そうか」
 確かに、今の死を見て草むらなどが動く可能性が高い。それがないということは、近くにいない証拠だ。メイスが薪小屋から出る。私もゲーラも遅れて出た。
「一発だな」
 とメイスがリスの足を掴んでいう。それですぐにナイフを作り出した。
「んじゃ、俺とななしとで残りを追うから、メイスはとりあえず食い物の確保をしてくれ。美味けりゃ美味いほどいいからな」
「あぁ。体調の悪いヤツらの滋養にはなりそうだからな」
「違いねぇ。優先順位はそっちだな」
「向こうが認めてくれるといいけど。あ、ウッドチャック? ダック?」
「グラウンドホッグな」
「元祖移民の言い方に則れば、ダックスだ」
 どちらでもいいがな、とメイスは付け加える。しかしゲーラは「チャックだぞ」と念を押してきた。
「チャック? えっと、ズボンの? つかみ?」
「じゃねぇよ。ウッドチャックの短縮形だ」
「変なの」
「『木を掴む動物』ってヤツじゃないのか? 前腕の爪に気を付けろよ。ヤツらの爪はかなり凶暴だ」
「へぇ」
「メイスも茶化すんじゃねぇよ。おら、行くぞ、ななし。早くしねぇと食料が逃げちまう」
「そうだね」
「俺は川を探しておこう」
 コイツの鮮度が下がっちまうからな、と。血だらけのチャックを見せてメイスはいう。喉から下が、真っ赤である。頭に血が上らないのだろうか、と思うけどもう掻っ切られた後だ。上る血がないんだろう。
 とりあえず鮮度の方は任せて、ゲーラと森に入る。足跡や物音を追うと、他の動物に出くわした。とりあえず仕留める。中には、普通のより小さいのもいた。
「感謝して食うとするかね。俺たちの命も延びる」
 そういって、ゲーラは仕留めた獲物の喉を掻っ切るのであった。


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