わくわくパック

 深夜の時間帯になると、さすがに暇になる。九時から十時までの間にピークは過ぎるが、それ以降はめっきり暇だ。
 カウンターの椅子に座り、スマホを弄る。ポチポチと溜まったスタミナを使ってたら客がきた。もう日を跨いだというのに。
「らっしゃいせー」
 適当に返す。間抜けな入店音に顔を上げると、三人組だ。背の高い男二人に、その中間で凹となる女。「どれを選べばいいんだろ」「全部だろ」「小さく書かれてないか?」などと話してカウンターにきた。
「なにか注文で?」
「えーっと」
「おい、コイツだろ。コイツ」
「でも、値段変わらないならこっちの方が。お得だって」
「は? 五ドルくらい違うだろ」
「えっ。あ、本当だ。十の位しか見てなかった……」
「おいおい、しっかりしろや。ボスの分も買わなきゃならねぇんだからよぉ」
「でも三人と四人分しかないよね。ガロの分も入れると、六人分?」
「五人分だ、馬鹿。いったい誰をカウントしたんだ」
「いたっ」
 長髪の男が女の頭を小突く。梅雨で髪が爆発したみたいな男は、女の肩に肘を置いたままである。どうでもいいが、さっさと決めてほしい。
「三三と三で、六じゃん」
「一個多い」
「三と三と三って、全部で九じゃね?」
「言葉の綾ってヤツだから」
「しかし残る一つをどうするか、だな」
「五人分だからなぁ」
「ガロとか、たくさん食べれる方にあげたら?」
「断る」
「なんか癪だな」
「でも、バラで買うとお高いんでしょ? あ、ナゲット二個ある」
 十ピースなんだけど。そうといわず、黙って客の話を聞く。混んでたらブチ切れ案件の長丁場である。手にしたチラシより目の前のメニュー見れや。
「一ドル、四ドルと二〇セントに、七ドル五〇セント」
「あ? 足したのか」
「一八ドルに七ドルと五〇セントを足すと、キツイな」
「二五ドルと足が出るな……」
「ポテト諦めたら?」
「三ドルほど減るだけだ」
 腕を組んだ男がピッと指を三本立てる。どうでもいいからさっさと決めてくれ。
「飲み物は?」
「いや、流石にそいつは可哀想だろ」
「一ドル減るだけだ。そっちを減らしたらボスに不味い」
「そっか、そうだよね」
 ならいうな。気付いてるならいうな。
「じゃぁ、四足す三か、三足す三で」
「四と四だったら、俺とボスとメイスとアイツで、二個ずつ食えるな」
「ななしの分はないな」
「ポテトだけ食べることにする」
「それはやめろ」
 名前が判明したが、女の方だけだ。ななしというらしいが、どこかで聞いた覚えが。
「ジュースは一ドルだし、安く済むじゃん。ほら、チキンナゲットもちょうど人数分」
「ふざけんな。ただでさえ食ってねぇのに、これ以上食うの我慢するな」
「わいわいパックの三人分と四人分を頼む」
「今ならプラス百円で倍バーガーに変えられますが?」
「いらん。飲み物はこれとこれで、バーガーはてりやきとフィッシュを交互で」
 チーズを抜かすとは一体。まぁ、トロトロと溶けてないので、固めのチーズが好みでなければ、てりやきかフィッシュを選ぶのが一番である。
「合計で三五ドルと六四セントになりやーす」
「三六ドルで。釣りはいらん」
 やったぜチップだぜ。
「じゃ、今作るんで少々お待ちくださーい。できたら呼ぶんで」
「あれ。チーズバーガーは?」
「ねぇよ」
「スプライトかファンタグレープで我慢しろ」
「それ、どっちもメイスの大好物じゃん。ファンタグレープの方が好きだけど」
「おい。コーラ頼んだか? メイス」
「あぁ。ついでにゼロも頼んでおいたぜ、ゲーラ」
「サンキュー。これで準備はバッチシだな!」
「あぁ!」
「オレンジジュースは?」
「頼んでおいた」
「ついでに野菜ジュースもなぁ」
「やったぜ」
 テンション差激しすぎるだろ、この二人。ポテトを箱に移すときに、気付く。そういや、ゲーラとメイスって名前も、どこかで聞いたような。
「持ち帰りで?」と聞くと「テイクアウトで」と返ってきたので箱に入れる。飲み物は紙コップに入れて蓋をして、商品一点ごとに専用の箱へ詰めた。それら全部を袋に詰めて、客に渡す。
「へい、お待ち。ドリンクは零れやすいのでお気をつけて」
「ありがとう」
「サンキュー」
「どうも」
 先に礼をいったのは女で、次が髪型爆発に長髪の男。さり気に女の手にあるドリンクと自分の袋を交換したあと、男二人は女を先頭にして店を出て行った。さり気に、一番軽いバーガーばかりの袋を持たせてたな、あの二人組……。
「ん?」
 ふと、『ゲーラ』と『メイス』と『ななし』の名前が、昔テレビで流れてなかったかと思い出した。
「いやいや」
 流石にそれはないだろう。あの有名なマッドバーニッシュの幹部二人とアレがだなんて……。そう思いながら、使った油を片付けた。


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