バイクのわからん

 ルチア女史はマッドサイエンティストと聞くけど、実態は発明の天才かもしれない。車庫で仰向けになりながら、自分のバイクを下から眺める。何度見てもエンジンのバッテリーやマフラー、配管のところとかがわからない。どれもピカピカの配管だ。
 理解を空に放り投げて配管を眺める作業をしていたら、真面目にメンテナンスを行っていたゲーラとメイスが覗き込んできた。
「なにやってんだ」
「やらんと終わらんぞ」
「それは」
 わかってるけど、の言葉を飲み込む。いっても始まらない。要するに、私にメンテナンスは無理なのだ。いや、健闘賞を贈るのなら【今の】私には。つまり、バイクをメンテナンスするための知識がないのだ。
 カンカン、と手持ちのスパナで配管を叩く。
「逆に聞くけど」
「おう」
「あぁ」
「どうしてゲーラとメイスは、そうバイク弄りが得意なの?」
「イジッ……!」
「改造か? バーニッシュになる前から弄ってたもんでな」
 シュッとスケボーごとバイクの下から出る。仰向けになってるだけでは辛いので体を起こすと、スパナがクルクルとメイスの手で回っていた。ついでにゲーラとメイスの体はこちらを向いている。胡坐を掻く二人を見ていると、メイスが口を開く。
「慣れだ」
「じゃぁ、ゲーラは?」
「あん? メイスと似たようなモンだ。勝手に触って、体が覚えちまったんだよ」
「ふぅん」
 ところで、私には一回もバイクに触ったこともない。あるとすれば運転くらいだ。強奪したバイクに車、ついでにバーニッシュサイクルは感覚で操縦することができる。
 つまり、運転はできてもエンジンの掛け方や詳しい乗り方は、教えられないとできない。
(使い捨てじゃないしなぁ)
 無理に乗って壊したら堪ったものじゃない。座椅子代わりのスケボーをクルリと回転させる。何度自分のバイクを見ても、構造がわかったもんじゃない。
「……磨けば、光るかなぁ」
「メンテナンスにはならんぞ」
「もうあのチミっこいのに任せた方がいいんじゃねぇのか」
 珍しくゲーラが真っ当なことをいったのを聞きながら、ジッと近くにある雑巾を見た。
(魔法の……『アラジン』)
 魔法のランプみたいなご都合なのが出てこないかなぁと思いながら、マフラーやエンジンのチェックをした。


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