だれかの思考が煩くて眠れない

 あぁだこうだと、ゲーラとメイスが喧嘩をする。煩い。思わず両手で耳を塞いだ。すると二人が驚いた顔をする。それを素直に受け取るのも嫌なので、背中を向けた。そのまま部屋に戻る。バタンと扉を閉めると、流石に静かになった。ズルズルと扉に背中を預けて、床に座る。(暗い)電気も付いてないから当たり前だ。ボーッと部屋の床を見ていると、遠慮がちに扉を叩かれる。向こうからだ。
「おい。なぁ、悪かったよ。機嫌直せって」
「別に、お前のことについて、いっていたわけじゃないんだぞ?」
 どうして私の方に話題が結びつくのか。あれは完全に、好みの問題について話し合っていたじゃないか。それでも、素直に受け答えするのは気が引ける。なんか、気にくわない。納得が行かない。扉越しに、無言を伝える。無視と受け取って、退いてくれた方がいい。けれど二人は退かなかった。少しの無言のあと、遠慮がちに力のないノックが一つ、扉を叩いた。
「なぁ、悪かったって。いってくれりゃぁ、直せるとこ直すからよ」
「その、気付かなくてすまん。すまんかった。だから、出てきてくれるか?」
(待って)
 なんかこれ、引きこもりの相談みたいじゃない? 流石に、こう誤解されたら困る! まだそこまでやられたわけでもないし。「えっ」と扉越しに振り向く。小さく声を出しただけだというのに、扉の向こうから、なんか嬉しそうな気配を感じた。ドアノブに近付いて、離れたような音もする。
「ななし? なぁ、顔を見せてくれるのか?」
「その、扉越しでも大丈夫だから、なぁ、やっぱ出てきてくれ」
(途中でメイスが折れた)
 扉越しでも大丈夫、といおうとした先にこれである。そんなに、さっきの態度が堪えたの? 思わず聞き返してみたい。でも自分で出て行った反面、中々顔を出しにくい。そうっと立ち上がる。扉越しに面と向かう。多分、この辺りに二人の顔があるんだろうな。そうっと、ドアノブを握る。
「その、えっと。なんだろう。あの」
「なんだ? なぁ、おい。なにかいってくれよ。ななし」
「流石に、心を読めといわれても困る。俺は、万能じゃないんだ」
「その」
 えっ、いや。これどうすればいいんだ? 思った以上に二人が堪えている。いや精神的ショックを強く受けているような気がする。(どうしよう)こんなこと、予想外だ。なんか、気を紛らわせるようなことを、いった方が良い気が。ふと、二人の気分を吹き飛ばすようなことを思い付いた。あれをいおう。
「なんか、うん。その」
「なんだよ。勿体ぶらずにいってくれ」
「頼む。お前の口から聞かないと、わからないんだ」
「うん」
 ここまで引っ張れば大丈夫だろう。今思い付いた策を、二人に展開した。
「なんか、こういうお伽噺というか、怪談の話があったな、って。思い出した」
 そうホラーの話を引き合いに出すと、無言が返る。あれ、当たらなかったかな。二人の気分が晴れると思ったんだけど。(なにか、いった方がいいかも)続けてなにかを話そうとするよりも先に、ガチャっとドアノブが回った。鍵を閉めているから、開かない。それでも気にくわないのか、ガチャガチャと何度も執拗に回った。
(何気に怖い)
 ホラーとか怪談に遭った人って、こういう目に遭うんだ。ホラー映画や番組でよく見かけるシチュエーションも、こういう実体験に基づくものなのかな? と思いつつ鍵を開ける。扉に全体重を乗せていたからか、ガチャっとゲーラが部屋に倒れ込んできた。あと一歩のところで踏み堪える。全開になった扉から覗くと、メイスがいない。
「あれ? メイスって? 斧取りに行ったの?」
「んなわけねぇだろ」
 そもそも、我が家に斧などない。それを示すゲーラのツッコミが、弱々しく私に入った。


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