きみが首無しならよかった

(あっ、しまった)
 つい勢い余って、カボチャを真っ二つにしてしまった。どうしよう。ヘタの方を切るつもりだったのに。そもそも、こんなに硬いカボチャが悪い! ジッと二つに分かれたカボチャを見つめる。中身の様子を理解しようとしたら、ゲーラが口を出した。
「あーあ、やっちまったな」
「うっ。こ、これは仕方ないというかなんというか」
「あぁ、使い物にもならんな。これだと」
 メイスも口を出してきた。そう寄って集っていわなくても、わかる。このスカスカ具合だ。食べるにしても、実が足りなさすぎる。
「観賞用のカボチャの、バカヤロウ」
「やっぱ安いと安いなりの理由があるもんだねぇ」
「その分纏めて買うと安く済んだが。鳩の餌にでもするか」
「餌付け、禁止じゃなかった?」
「ならクッキーにでもしちまうか。カボチャの風味っていっときゃ誤魔化せるだろ」
「足りない分は砂糖やハチミツやらで代用しちまえばいいか。ほら、貸せ」
「うぅ」
「げっ」
 実を抉る係に渡せば、隣でゲーラが呻いた。顔を戻せば、同じようにナイフがカボチャの皮に突き刺さっている。でも、それ以上進むこともなければ、戻ることもない。カボチャの真剣白刃取りが成立していた。カボチャをグッと押さえるゲーラが、柄を掴んで刃を取り出そうとする。けどカボチャが必要以上に頑固だ。肩で息をしたゲーラが、チラッとこっちを見てくる。視線で助けを求めていた。しかし、これはいったいどうすれば安全性が良いんだろう? よくわからない。
「ナイフを引っ張っても、危なさそう?」
「俺たちは、もうバーニッシュじゃないからな。脳天から行かれたら死ぬ」
「ぐっ! なら、他の方法を取るしかねぇってのか」
「単独で抜き取るしかないよね? 自分で押さえて」
「そうなるな。硬さは、さっき以上になるか?」
「クソッ! 外れを引かせやがって!!」
「だから食用の方が良かったのかな。そういうオススメも出てるし」
「勧められるにも理由があるってことだ。どうする? 一旦温めてみるか?」
「焼いてどうすんだよ。コイツごと食うってのか?」
「馬鹿か? 電子レンジで温めるんだよ。皮と実が温かくなりゃぁ、少しは柔らかくなるだろ」
「カボチャの餡やパイと同じ?」
「ありゃペースト状にしてンだろ。いわれてみりゃぁ、確かに茹でれば柔らかくなるよな」
「そういうわけだ。というわけで、一旦温めてみるか。今まで抉ってきたものと一緒に」
「おい。それじゃぁ時間かかるだろうが!!」
「正確な時間って? 書いてなかったはず」
「あぁ。その辺りは勘だな」
「なんとかなるものなのかなぁ」
「ならねぇだろ。じゃぁ、ナイフが抜けるまでの間はドウシロッテンだ」
「種でも綺麗にしてくれ」
 ドンッと実から剥がされた種が出てくる。カボチャの実の繊維が付いている。まだ洗ってないようだ。チラッとゲーラの方を見ると、嫌な顔をしている。ザルに入れて水で洗うだけなのに、嫌な作業らしい。こちらに気付いたのか、ゲーラがその顔のまま私を見る。そして種を指差した。
「代わるか?」
「やだ。さっき、ナイフ刺さったばっかじゃん」
「運が尽きたんだろうな。休憩ついでにやったらどうだ?」
 洗う作業を渡した人がいう。その問いにゲーラはますます嫌そうな顔をした。「チッ」と舌打ちもしてくる。チラッと種を見て、視線を外して溜息を吐く。「はぁ」とわざわざ声にまで出してきた。
「食い物じゃなかったら、今すぐ捨ててたっつーのに」
「カボチャの種を干すだけだから、大丈夫だよ」
「時短でオーブンだ」
「それだとクッキーすら焼けねぇだろ」
 ゲーラのツッコミが冴えた。


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