遮断機を切って落とす

 カンカンと遮断機の下りる音がする。プロメポリスには珍しい、路面を走る電車だ。(これ、地下を走るのとどっちが酷くなるんだろう)被害の規模が。そうぼんやりと考えていたら、グッといきなり腕を引っ張られた。メイスだ。危うく紙袋の中身が出そうになる。あと一歩のところで、不幸なことは起こらずに済んだけど。腕を引っ張った本人を見上げれば、とても驚いた顔をしている。なに、と尋ねる間もなく電車が後ろを通り過ぎた。ゴォオオッ! と空気を切り裂く音が辺りに響く。メイスが「あ」と開いて「う」と唇の形を作った。いや、もしかしたらもっと他の意味かもしれない。けれど、通り過ぎる電車が、なにもかもを掻き消す。風だけが電車の進行方向へ後を引いて、音と一緒に消えた。ポカンとする。カンカンと鳴り終えて、ぐぅと遮断機が重く上がる音がする。同じように待機してた人たちが、一斉に向こうへと渡った。
「な、に?」
 ようやく声を捻り出す。すると、メイスの緊張が緩んだ。見開いた目尻の力が抜けて、心なしか垂れる。肩も力が抜けたように、ふにゃりと落ちた。
「そこまで近付くと危ないだろ。わからないのか?」
「あ、うん。遮断機のギリギリでも?」
「当たり前だ」
 馬鹿、と言葉の最後に付きそうな物言いである。もう少し近寄れ、という風に腕を引っ張ってくる。それに従って目の前に行くと、メイスが動いた。歩き出して、横に並ばせる。腕を離したから、向きも揃えた。気持ち、メイスの歩幅に合わせる。線路を渡りながら、メイスが話した。
「あんなに近いと、全てを持って行かれるぞ」
「なにを?」
「腕や頭、全部だ。電車のどこかに引っ掛かってみろ。あの速度で、身体が引き裂かれるぞ」
 その一言に、ゾッと寒くなった。トンッとメイスの指が私の鎖骨辺りを叩く。特に、上半身と下半身が分かれると。暗にそういいたいのだろう。「あの距離でも?」と聞けば「あの距離でもだ」と返る。
「風圧も凄まじいからな。風に巻き込まれて、死んでしまうぞ」
「うっ。タイフーンみたいに?」
「あれとは別だな。八つ裂きだ」
「勘弁願いたい」
 多分激痛と一緒に、この世からオサラバだ。ただでさえ、バーニッシュじゃなくなったんだし。咄嗟のことで機転が利きにくくなる。寧ろ、普通の人間に戻った以上。そういうことは勘弁願いたいというか。
 早足になった私の隣に、メイスが追い付く。息を乱さないまま「はぁ」と溜息を吐いてきた。
「勘弁してくれよ。本当に」
 その発言には、疲れと心労が籠められていた。


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