ひかりとよく似た病気

 あまりにも眩しいと、人間目が潰れるものだ。ゆさゆさと体を揺さぶられる。「おーい、ななし。交替の時間だぞー」なんて呑気な声が聞こえた。違う。重い瞼を上げると、ガロ・ティモスがいた。キョトンとして、こちらを覗き込んでいる。
「休憩の時間は終わりだぜ? ほれ、退いた退いた」
 シッシッと手で追い払うような真似をしてくる。もう少し寝たいところだ。腕時計を引き寄せると、もう六時間経っていた。うぐ、仮眠終了である。
「なんかきた?」
「来てねぇよ。寧ろ安心安全平和そのものだぜ? カーッ! 腕が鈍るぜ」
 それは逆にいいのでは? 放火魔バーニッシュなんて出ないものだし。そう思いながら、靴を履いて上着を拾う。床に落ちたものだから、砂利とか汚れが少し着いている。ベッドから離れると、ガロ・ティモスから背中を叩かれた。
「ほら、シャンとしろ! 寝惚けてると転んじまうぜ?」
「うーん」
 わかってるよ、とだけ視線を送って仮眠室を出た。ルチアとアイナ・アルデビットと行き違う。「あら、お寝坊さん起きたの」「ほら、起きた起きた! 他の人はもう起きたよー?」とコメントを貰われる。また背中を叩かれた。アイナの力は、ガロのよりちょっと痛かった。喝を入れられながら、休憩室に入る。隊長と副隊長、バリスがいた。ゲーラとメイスはもう出ていた。確か、五人で交替のはず。そう思ってたら、隊長がこっちに気付いた。
「おっ。起きたか」
「ちょうどいいタイミングだな、狙ったのか?」
「なわけないだろう。偶々だ、偶々」
 いったい、なにを話しているんだろう。二人を見ると、気付いた。こちらに近付いて、コツンと指で小突いてくる。
「ちょうど話し終えたところだったんだよ。引き継ぎの」
「まったく、起きれないと困りものだな」
「じゃぁ、起こしてよ」
「それだと特訓にならないだろう」
 なんのだ。副隊長の一言に気にかかる。「緊急警報が鳴ったら、流石に起きるよ」そう口を叩けば「それじゃぁ、困るんだよ」と返された。
「いざというときに仕度が出来なかったらどうする?」
「もうしてる」
「他の準備だ! レスキューモービルに乗り込むまで、距離があるだろう?」
「走れば間に合うかも」
「『かも』じゃダメって話だろ」
「だが、コイツならやりかねんからな」
「そこが問題だというんだ。はー」
 どうして深く溜息なんて吐かれたんだろう。できるときにできればいいのに「一秒の油断が命取りなんだぞ」とゲーラに頬を抓られた。ムニムニ、ピンと。ギュウギュウと頬を引っ張られた。
「ひ、ひひゃひ」
「オンとオフの切り替えは大事だぞ」
「最悪、荒療治するしかないな」
「そうなる前に、するから」
「期待しておくとするよ」
「日頃から心構えをしておけば、自然と治るだろう」
「だとよ。とりあえず切り替えておけ」
「ぷはっ。わかってるよ。ところで」
 ゲーラに離されて、ようやく自由になれる。「ボスは?」と聞くと「もう寝ちまったぞ」と返ってきた。ついでに「真っ先に仮眠室へ入ったな」とも。
「お前が寝てる間に、ベッドへ入り込んだぞ」
「そんな。それなら起こして」
 もいいのに、と続けようとしたら唇を押された。指が離れる。
「疲れているようだったからな」
「そりゃ、起こすのも悪いって話になるだろ?」
「そ、そりゃそうだけど」
「まぁ、要はななしが起きればいいだけの話だ。というわけで隊長。あとはこっちがやっておきますよ」
「うむ」
 といって、隊長が離れる。どうやら、朝まで起きる組は副隊長とバリスらしい。新入り三人、経験者二人。対して向こうはリーダー格が一人と経験者三人に新人一人の割合だ。(なんか、可笑しくない?)疑問に思って、副隊長に尋ねた。
「あの。副隊長」
「ん? なんだい」
「どうしてこっちだけ、三人なんで? バランス的に考えたら新入り二人、先輩三人の方がいいんじゃ」
「有事の際のバランスだな。チームワークで見たらどうなる? それに、ガロもあぁ見えて半人前だ」
「はんにんまえ」
「実質、向こうは新入り二人を担当しているという計算になるな」
「じゃぁ、こっちが三人なのは?」
「大人だろう? 三人とも」
「そこまで手が掛からんという計算だ」
「なるほど」
「じゃねぇだろ」
「まっ、滅多なことは起こらんと思いたいがな」
 この時間帯となると、そうないんだろう? とメイスが副隊長に聞く。それに副隊長が「あぁ」と答えた。ゲーラに視線を向ける。
「出動命令だよ。この時間帯になると、ボヤ騒ぎどころじゃねぇからな」
「それに、あぁいう系統の緊急も、なさそうだからな」
(あれ系統)
 なんか心当たりはあるけど、出る傾向なんてあるのだろうか? そう思いながら、ソファに座る。テーブルの上に、先行組の遊んだ後があった。
「とりあえず、訓練だけはしておくか。予行練習をしておくだけマシだし」
「うぃっす」
 スパルタだ。バリスの出した器具の数々を見て、げんなりとした。あれもやって、これもやって。
「生身の体で?」
「レスキューモービルを使うスペースが、あると思うか?」
「お前らは、筋トレからだな」
「ぐっ」
 異口同音に呻いた。


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