道化師たちの指と指

 ゲーラの指は雑誌を捲って、メイスの指はギターの弦にかかる。皆それぞれ、適当な寛ぎ方をしている。私はといえば、エアーの鍵盤を叩いているだけだ。実物はない。目の前に鍵盤を思い浮かべて叩いている。
「なぁ、ななしよ。それ、楽しいか?」
 クッション代わりにしているゲーラがいう。ゲーラ自身は座っている。ただ、私がゲーラの膝をクッションの代わりにしているのだ。足を組んでいる分、高さを調整しやすいのである。脇や胸の痛みの代わりに肘の負担が軽減。
「セッションなら、いつでも受け付けているぞ?」
 ジャン、と弦が一度に鳴らされる。メイスは一人掛けのソファで、一人ギターを触っている。私はといえば、三人分の広さで横たわっていた。今日だけは、私のフリースペースである。
「いい。触っても、よくわからないし」
「けど、少しは習ってたんだろう?」
「まぁ」
「ならよ。弾いてみたらいいじゃねぇか。どこかでも借りれるらしいぜ?」
「いい。鍵盤の調整とか、やったことないし、難しそうだし」
「やってみないとわからないと思うぞ? とにかく、やってみたらどうだ?」
「俺も聞いてみたいぜ、その演奏」
「むっ」
 二人して寄ってたかって。人をおちょくって楽しいんだろうか? そういえば「違ぇよ」「違う」と返ってきた。言葉は違うけど、ほぼ異口同音だ。
「空気だけじゃ、わかんねぇだろ」
「なにが」
「楽曲だ。指の動きだけではわからんだとよ」
「メイスは?」
 だとしたら、わかるのだろうか? そう聞けば肩を竦める。どうやら、わからないのらしい。メイスにもお手上げだ。私にも、楽曲名はわからない。ただ、音の流れがわかるだけだ。ここは強く、流れるように移って、そこは強弱をつけてからのドーンで。これらを言語化するなんて、到底できない。
「どの楽器を使えばいいのかも、わからないし」
「ならフォローするぞ? 似たようなのを探して、思い出せばいい」
「手当たり次第弾いてみればいいじゃねぇか。楽器屋に行きゃぁ、色々とあるんだろ?」
「まぁ、そうなんだろうけど」
「そうだな」
 チラリとメイスの方を見れば、肯定が返ってきた。流石楽器に詳しい。ギターを見ると、完全に手が止まっていた。
「弾かないの?」
「今はお前に夢中さ」
「ケッ、くせぇこといいやがって」
 それで一曲作り出そうとしたメイスに、ゲーラは嫌な顔をした。


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