アイスケーキ・クラッカー

 暇をしているとゲーラがテレビを見ていた。ポチポチとチャンネルを変えて、流れる映像を見ている。コメンタリーの映像からスポーツ番組、ドラマへと。放送する番組の幅は広い。テレビの中で、ボールを抱えた巨漢がゴールへ突っ走った。それから番組が変わって、なんの変哲もないバーベキューを映し出す番組が映る。
「暇なの?」
 尋ねれば、
「おう」
 と頬杖を突いた状態で返事が返ってくる。
「なら自分の部屋にいればいいのに」
 わざわざ来なくても、と。裏を含ませていうと、
「暇だったんだよ」
 と同じ言葉が返ってくる。そうはいわれても。レシピと睨めっこをしながらアイスケーキを作る。材料のクリームチーズを室温に放置し、その間に牛乳と砂糖を計る。それで生クリームも立てて、型に入れて冷蔵庫にぶちこむと。
「どうせなら手伝ってよ」
「あ?」
「お菓子、作ってるの。手伝って」
 ソファでだらけるゲーラが顔を上げる。室温に戻すまで時間があるし、ハンドミキサーなんてもの、家にあるわけがない。泡立て器をゲーラに渡す。
「なんだ、これ」
「泡立て器。ぷっくらと角が立つまでやるんだって」
「は? 角?」
 混乱するゲーラをよそに、ボウルに生クリームを入れる。きっかり一五〇ミリリットル。それをゲーラに渡した。
「よろしく」
「よろしくっつったてよ」
「ガシャガシャと泡立てればきっと角が立つようになるから」
「これがかよ」
 液体の生クリームに泡立て器をつけたゲーラがいう。見ての通り、液体がポトポトと落ちている。これが絵のようにぷっくりと角を立つだなんて不思議だ。
「ガシャガシャやればできるっぽい」
「はー、できるのかねぇ」
「多分。力仕事になるだろうから、よろしく」
 そういって役割を任すと、ゲーラはこちらを見た。チラリと。それだけをして、顔を前に戻した。カシャカシャとソファの上で泡を立てる。私は、キッチンに戻ってクッキーを潰した。
 食べたいクッキーを適当に袋に入れて、グシャグシャと潰す。バラバラと粉々にすると、砂糖を計った。ちゃんと二〇グラム。けれどもチーズはまだ戻らない。ヘラで刺しても固いままだ。
 諦めて、ソファに座る。ゲーラはボウルを足の上に置いて、カシャカシャと泡だて器を動かしていた。
「貸して」
「あ?」
「こうするのが一番いいんだって」
 ゲーラの膝からボウルを預かり、脇で抱える。それから泡立て器も貰って、カシャカシャと勢いよく腕を動かした。
 それを見せてからゲーラに戻す。
「こうだって」
「……零れねぇのかよ、それ」
「さぁ。そのくらい傾けても垂れないほど、角が立つんだって」
「ほう。なるほどねぇ」
 そいつぁいい判断を貰った、みたいな口振りでゲーラは頷いた。全部アフレコだけど。
 泡立て器をゲーラに任せてクッションを抱える。野性的なバーベキューをする番組からチャンネルを変えても、特に惹かれない。
 元の野性的な番組に戻して、ソファに寄りかかった。
「おめーはやらねぇのかよ」
「戻るまで待ってる」
 キッチンに鎮座するクリームチーズを指していった。


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