その頃のマドバ(???バース / 消火後)

 この街の冬は冷たい。それはいつまで経っても変わらない。バーニッシュである頃なら薄着でも平気だったが、そうでない今は辛い。薄着をしていなければ、体温の低下で風邪を引いてしまうところだった。リオはダボッとしたトレーナーとスウェットを履いており、どれも柄物だ。生来の愛らしくも精悍な美少年の顔もあって、どんな柄物でも着こなす。対してななしはパジャマで、スリッパをパカパカいわせながら歩いている。リオがシューズを履いているのに、だ。一方、ゲーラとメイスは普段着と変わらないものを着ていた。但し服の締め付けは弱い。ゲーラはロングTシャツにスウェットのパンツを履いており、履き潰したシューズの踵を踏んでいる。時折、だらける爪先から靴が落ちた。メイスはタンクトップであるものの、ガウンを羽織って防寒性を高めている。下はスウェットだ。こちらはサンダルである。どちらも全員、身体を締め付けない素材とデザインのものを着用している点は同じだった。メイスだけがアイマスクをする。
 その中で、ななしが一つボソリという。
「爪先が寒い」
 生殖機能が出産可能で性別が雌であり人間の体を持つ以上、冷えが付き纏う。とりわけその雄と違い、冷えに弱かった。その発言を聞いて、ゲーラとメイスが動く。リオが「裸足だからだろ」とななしに突っ込む。「リオだって靴下を履いてないときがあるじゃん」「僕は風呂上りだからいい」リオは読んでいる途中の雑誌に戻る。「スリッパなのに?」追求するななしに「風呂上がりだから温かいんだ」と反抗する。高性能高価なバイクのラインナップを眺めることに戻った。
 ゲーラとメイスが、自分の部屋から出てくる。
「ほらよ。これ使え」
「たまたま目に付いたから買ってきただけだ。使うときに使え」
「なにをやっているんだ? お前たちは」
「あ、ありがとう。ゲーラ、メイス」
 突っ込むリオとは反対に、ななしは感謝して受け取る。ゲーラとメイスの顔を見るリオの顔は、呆れている。「なに、なんてことはねぇっすよ」「ただ目に付いたから買っただけのことでありますから」「そのことについて突っ込んでいるんだが?」疑うリオの眼差しに、二人はなにもいえない。クールな幹部像では誤魔化すことはできなかった。
 ななしが貰ったものを見て、パァッと顔を輝かせる。
「わぁ! こんなのがあったんだ!!」
「おい。これはお前たちの趣味か?」
「ボスが履いても俺たちはなにも言いませんぜ」
「寧ろ応援します」
「僕に話を逸らすな。目を見ていえッ!!」
「片方ずつ履けばいいかな」
「おう。フリーサイズだからいけると思うぜ」
「これはこれで、中々いいな」
「やっぱりお前たち、見たいから買ったんだろ。まったく、素直じゃないヤツらだ」
「それはボスには言われたくないっすねぇ。ギリギリまで限界を隠されたら、俺たちの気が休まらねぇ」
「ボスが倒れたら、俺たちだけではなく他の連中も慌てますからね。無理をしない内に、俺たちに頼るなどして休んでください」
「お前たち。だからといって、今の言い方で渡すのは素直じゃなさすぎると思うぞ」
「それは別問題だぜ。ボスと同じ土台で話せませんからね」
「そうですよ。コイツはコイツなんですから」
「一足余った分、ボスが履く?」
「いや、お前が履いておけ。それにしても、両足がキメラだな」
「これはこれで中々良いと思う。お洒落が楽しみ」
「どういうのを着るんだよ?」
「両足キメラだから、両側がアシンメトリーのタイプとなるだろう。組み合わせる分を考えるだけでも楽しいな」
「詳しいな。メイス」
「コイツぁ腐ってもヴィジュアルバンドをやってたっすからね。その辺りの事情には詳しいんでしょうよ」
「金はかかるがな」
「お洒落、お金のかかる趣味」
「そうか」
「んなことよりバイクのパーツ代に当てた方がよくねぇか? あと服」
「なんだかんだ金が掛かるからな。僕たちメンバーの服を買う分にしたって」
「一着四十ドルはかかるんでしたっけ? オーダーメイドだと」
「文字入れだと、それくらい。そう多くは用意しないから、まだ懐は痛まないが」
「バーニッシュだった頃を考えると、人数増えるとヤバそう」
「収入を増やすか、節制をするかですね」
「だな」
 はぁ、とリオが溜息を吐いた。ソファに深く沈む。問題は色々と山積みになる。それらの対処を考えて、気が滅入った。
 自由になったマッドバーニッシュは、今もなお『今』を生きている。


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