戦利品を持って(前日譚前)

 ビルの管理に手を抜くところはあるらしい。バーニッシュが燃やさなくても、ビルが勝手に燃えた。あの色合いを見るに、人為的にしたものだろう。「あーあ、派手に燃えてらぁ」「あの様子だと、覚醒するバーニッシュもいるようだな」そうゲーラとメイスが戦利品を食べながらいう。半分に割った林檎だ。私は食べられる分の二切れだけ貰って、お腹いっぱいだ。それ以上は吐く。「しょうこいんめつ?」記憶を手繰り寄せて、該当する言葉をいう。「おっ、そういうのどこで知ったんだよ?」「俺たちが使ってるのは、あるな。まっ、こういう町だからこそだろう」シャリッとメイスが刻みよく林檎を齧った。違法な賭場は稼ぎやすいらしい。とりあえず人数分の食料もある。「あとは、そうだなぁ」ゲーラがシャリシャリと林檎を食べながらいう。負けを憎んで仇討を狙う、といったところだろうか? チリチリと後ろの物影から焼けるような視線を感じる。「リベンジマッチ!」「そう生温い方なら、いいんだろうがな」「そう現実、優しくねぇってモンがセオリーだろ」何故かゲーラに至ってはウキウキだ。心が躍っている。力を振るいたくて堪らないのだろうか。私も持っているというのに、荷物を押し付けようとする。「待て、ゲーラ。こういうのは、ハンデを持たせるのがいいんじゃないのか?」「あ? 食料とかが燃えちまったらどうしようもねぇだろ。安全なところに置くのが、いいってモンよ」「それもそう」「はぁ。まっ、そういう風に好き勝手燃えるところは良いと思うがな」といって、メイスはハンデを持って向こうへ飛び掛かった。「テメッ! 卑怯だぞ!!」ゲーラも私に荷物を任せてから、後に続いた。メイスと違って出せる炎の量は多いけど、本人の気質からか持っているものさえ燃やす。身に付けてるものは大丈夫でも、袋やその他諸々荷物へ引火することもあった。両手で袋二つ分抱えるのは、ちょっと辛い。違法賭場から尾行をしてきた復讐者相手に、ゲーラとメイスはボッコボコにする。バーニッシュという能力のハンデがあっても強い。回り込んで戦利品を取ろうとした相手もいたので、そっちは私がボッコボコにしておいた。
「こんなにウジャウジャいるようなら、組織ボコって乗っ取った方が早ぇんじゃねぇか?」
「裏から世界を牛耳ると。それも中々面白そうだな」
「なんか面倒くさそう。法律とか、いろいろ」
「あ? んなの、バーッと薙ぎ倒しゃいいだろ! 俺たちの炎は最強なんだからな」
「まぁ、行政の手が介入しないように賄賂を贈る手もある。が、発作のように燃やさなければ生きていけないところがあるからな。難しいだろう」
「チッ、なんだよ。悲観的だなぁ。んなの、人間の街を燃やしゃぁ」
 といったところで、ゲーラが黙る。なにかを思い出したんだろうか。その横顔は、ちょっと寂しそうに見えた。
 ピョンと積み上げた人の山から下りて、私に渡した荷物を持つ。
「やめだ、やめ。考えてみりゃぁ、んなの面倒臭ぇ。パパッとぶちのめして俺らが走れる環境作った方が早ぇ」
「だな。略奪にも限りはある。その辺りをどうにか考えたいところだが」
「せちがらい」
「おい、メイス。口調移ってンぞ」
「そんな会話をしていることが多いからだろう。俺のせいじゃない」
「『世知辛い』なんて言葉、滅多に出ねぇぞ?」
「他の連中も使ったんだろう。とにかく、俺はそこまで」
「ほら、やっぱり覚えがあるじゃねぇか! まっ、そこまで都合の悪いモンじゃねぇけどよ」
「せちがらい」
「お前も、ノリで使ってんじゃねぇよ」
 ななし、といってゲーラが片手で引き寄せてぐいぐいする。頬をすごくフニフニされた。「歩きにくいだろ」とメイスが突っ込む。
「落とすんじゃないぞ」
「落とさねぇよ。っつーか、ジェケット着るとなんかアレだな。違和感があるっつーか」
「ノースリーブに、じゃけっと」
「あ? 一応は冬なんだ。それに合わせないと、浮いてしまうだろ」
「そうかねぇ」
「少なくともノースリーブは浮くと思う」
「バーニッシュだから、冬の寒さに耐えられてもな。氷点下だと、まぁ力は弱まるかもしれん」
「大敵だ」
「っつと、極暑の地だと俺たちの力はさらに輪にかけて最強になるっつーことだな!! メイス!」
「雨も降らない雪も降らないだからな、脱水症状で死ぬ可能性はあるかもしれんが」
「なら他の連中がヤバくなるって話になっちまうな。水を飲まなきゃ死んじまうしよ」
「生きれるけど、生き地獄」
「おっ、経験者か?」
「だったら考えねぇとなぁ。はぁ」
 世知辛いぜ、とゲーラがいう。ほら、メイスだけじゃなくゲーラまでいった。ゲーラの裾を引っ張って、メイスを見てゲーラを指差す。ほら、ほらほら。それを見てメイスは「そうだな」と頷いてくれる。これにゲーラが疑問を抱いた。
「あ? なにがだよ」
「『世知辛い』の使い方だ。すっかり口癖になったと見える」
「はぁ? そーかよ」
 素っ頓狂に声を上げつつ、とりあえず同意はしておく。なにかわからないけど、つまりそういうことなんだろうと納得したヤツだ。多分、全体的なことをいってるんだろう。メイスも『世知辛い』と口にするし、ゲーラも『世知辛い』と口にする。このマッドバーニッシュに属するメンバーが自然と共通する口癖に近いものかもしれないのだ。
「せちがらい」と口にしてみる。そうするとゲーラとメイスが「そうじゃねぇだろ」「そうかもな」と返してきた。二人を見上げる。否定したゲーラは前を向いてるし、肯定したメイスもなにもいわず、歩いている。特に問題はないようだ。違法賭場で稼いだ戦利品を持って、私も皆の待つところへ急いだ。
 ドカンッ! と音がする。違法の蔓延る町は、また一件火事と爆破を起こした。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -