クリスマス・事前調査(消火後)

 まだ十一月なのに、霰が降ってきた。「今年はホワイトクリスマスかもなぁ」なんて声も聞こえる。デリもスーパーも、クリスマスに向けて店内が変わり始めていた。商品も、少しずつそれに変わっていく。「クリスマスかぁ」「おっ、もうそんな季節か」「ガキどもにプレゼントを買わねぇとな」最近忙しすぎて、プレゼントの調査もしていなかった。「今からでも間に合うかな?」「間に合わせるしかないだろう」「だな。今度孤児院に行って、それとなく聞いてみるか?」その結果、子どもたちから「特にいらない」って返事が返ってきた。これにゲーラが驚く。
「ん、んなわけねぇだろ!? ほら、前に欲しいとかいってただろ!? あれとかどうだ!?」
 慌てて前に聞いたことを尋ねてみるけど、その子は首を横に振る。「今あるのでいい」と返ってきた。逆にメイスは尋ねた子の口から出たものに驚いて、目を丸くする。
「は? そ、それより高いのも買えるぞ? 本当にいいのか? 遠慮しなくてもいいんだぞ?」
 慌てふためいて要望を聞き出そうとするけど、その子は首を縦に振らない。ジッと「これがいい」とメイスの目を見ていうだけだ。私も他の子に「遠慮しなくてもいいよ」と尋ねるけど「でも、生活があるんでしょ?」と返される。しまった。職場と家との往復とで距離が空いてしまった。
「遠慮しなくてもいいってのによぉ。そんだけ金がないように見えるかぁ?」
「俺たちに気を遣ったのは、傍から見てもわかるだろ。くそっ」
「気にかけるなら、養子にしてくれってことなのかな」
「養子にしたいのも、山々だけどよ」
「金がな。それに、家を空けている時間が多い」
「子育てをするには、ベビーシッターが必要っぽそう」
「だったら孤児院に預けた方がマシってなるだろ?」
「悪徳な施設じゃないからな。最近は、寄付をしてくれる人間も増えた」
「パトロン?」
「そういうこった」
「だから、あの頃より暮らしはマシだと思うが」
「物質的な面で?」
「あぁ」
「去年はあんなに教えてくれたってぇのに」
「もしかして」
 思い当たるのは一つある。村と比べて唯一違うのは、あの辺りだ。お金よりそれがほしいってのは、よくわかる。
「もっと一緒にいてほしい、ってことなんじゃないの? 時間がほしいんだと思う」
「あー」
「そっちか。ふむ」
 メイスが眉を顰める。唸るように頷くゲーラとは反対だ。ゲーラもゲーラで、ちょっと悩んでる。メイスがポツリと呟く。
「時間、取れるか?」
「作るっきゃねぇだろ。とりあえず、パーティーの準備をだな」
「その前に、孤児院の運営側に掛け合う必要があるだろう。スタッフにも、か」
「上の人と話し合う必要がある?」
「そういうこった」
「もうクリスマスまで一ヶ月もないからな。忙しいぞ」
 そういって頭脳役のメイスが頭を抱える。ゲーラが行動に出ても、スムーズにするには色々と準備が要る。そんな苦悩が読み取れた。ゲーラもゲーラで、大変なところもあるらしいけど。それはちょっと、今はわからないところだ。
 二人の吸った煙草の煙が、プカプカ宙に浮いて消える。
「孤児院から、離れたところでよかったね」
「シーッだぜ。見つかってもシーッだ」
「そんな子どもみたいにいわないで」
「子どもだろ。携帯灰皿はあるんだ。一応、大丈夫だろう」
「喫煙してる時点で、ダメだと思う」
「はーぁ、退屈な世の中だぜ」
「火事やボヤ騒ぎ、緊急出勤は毎度一つは起こるがな」
「大変だ。どうにか時間を作らないと」
「有給、出すかぁ」
「甘い夜を過ごしていると、思われそうだな」
 ポツリ、と呟くたびにドーナツの輪が生まれる。宙に浮かんで、空へ近付くと小さくなっていく。煙の蒸発だ。それでまた、二人の口に含んだ煙が、ぽうっと大きなドーナツの輪を作った。
 煙草の煙が、辺りに漂う。外なのに、ここだけ充満していた。
(悩んでるのかなぁ)
 二人は難しい顔をしながら、煙草を吸い続ける。ぼんやりと浮かぶ煙草の煙を眺めた。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -