ある日の閑散期(消火後)

 唇をふにふにと触られる。親指で軽く踏んで、人差し指で下唇の縁を挟む。なんだかそれが嫌で、ペシッと手を払ったら、これにゲーラがムッとした。顎を肩に乗せてくる。
「んだよ。別にいいじゃねぇか」
「なんか、やだ」
 拗ねるゲーラに首を振ると、メイスがフフンッと胸を張る。
「気に入らない、というヤツだな」
「るっせぇよ。なぁに得意げにいいやがる」
「噛むよ?」
「珍しく反抗期だな」
「おー、おー。だったらやってみろよ」
 ゲーラが挑発的に親指でふにふにと唇を触るものだから、かぷっとやってみる。唇を割って歯で触ってきた方が悪い。あっ、と小さく口を開けて、前歯で挟んでみる。ふにふにと左右で擦ってみたら、ボソリとゲーラが「甘噛みじゃねぇか」といった。甘噛みって、こういうものだっけ? メイスも「甘噛みだな」と同意した。なんか思ってるものと違くて、思わず止める。
「違う。噛んでるよ」
「噛むってのはなぁ」
 ぐっとゲーラの親指が抜けて、顔を近付けてくる。浮いた背中の隙間が消えて、ピッタリくっつく。元の身長差に戻って、少し上から覆い被さってきた。
「こうするンだよ」
「痛い」
 カプッと鼻を噛んできた。これにゲーラがムッとする。
「痛くはねぇだろ。甘く噛んだだけなんだしよ」
「歯を立てたんじゃないのか。一点攻撃は辛いだろう」
「攻撃してねぇよ。甘く噛んだだけじゃねぇか」
「やり返してみる」
「おー、おー。やってみろや」
「といいつつ、おっ。コイツは良さげだな」
 メイスはマイペースにタブレットで買い物を続けている。ゲーラの頬を両手で覆って、自分の方へ近付けてみる。意外と乗り気だから、簡単に誘導できた。できる距離になったから、カプっと噛んでみる。ゲーラと同じように鼻を噛んでみたら、ピクリとしない。離してみたら「痛くもねぇなぁ」とゲーラがぼやく。
「こういうのは、もっと顎に力を入れた方がいいんだよ」
「今はそういう気分じゃない」
「お気に召さないらしいぞ」
「だったら、その気にさせらぁ」
「やーだ!」
「実力行使に出てるぞ」
「ちぇっ」
 ポカポカとゲーラの肩を叩いたら、離れた。背中の距離が空いて、ギュッと腰を抱えられる。私は未だに、ゲーラの足の上だ。ソファの上で、ゲーラを背凭れにしている。それで最近出たゲームをやる。メイスは未だに、タブレットでウィンドウショッピングだ。ゲーラは暇そうに、私の肩に顎を乗せて、プレイの様子を見ている。
「なんか、こういうのって実況あった方が面白くねぇか?」
「白チーム、勝ちました」
「そうじゃなくてよぉ」
「そもそも、どうしてチーム対抗戦なんだ? 色じゃなくて、独自の隊名が付くはずだろう」
「白チーム赤チーム青チームの方が、わかりやすい」
「なんだ、そりゃ」
「色別に分けて、どうするというんだ」
「知らない」
 それは文化の違いだろう。ポチポチとゲームを進める。「あっ、そこ。アイテム」「あとで取る」「なぁ、こういうのはどうだ?」気になるものがあったんだろう。メイスがタブレット片手に、距離を詰めてきた。それにゲーラが、身体を伸ばす。反動で、身体を曲げざるを得なかった。あっ、ギリ操作ミスを免れた。ポチポチとスコアを取り続ける。
「いいんじゃねぇの?」
「だな。よし、買ってみるか」
「値段が高すぎンだろ。ボケ」
 ゲーラが悪い口を叩いた。


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