荒野で天体観測(消火後)

 今日は流星群が降るみたいだ。ゲーラとメイスが、リオと一緒にウキウキしている。「星が降る日にバイクで飛ばすなんざ、ボスも通っすね!」「荒野だと夜空を遮るものがないですからね。天体観測には持ってこいですよ」「あぁ! ついでに流れ星も追いかけられるからな!」「ボス!!」ちょっとだけ、ゲーラとメイスが感涙していた。ボスも、子どもっぽいところもあるんだなぁ。いや、ボスはまだ若いし、そういう子どもっぽいところが残ってもなにも不思議じゃない。「ななしも行くんだろう?」と聞くから「うん」とだけ答えておいた。といっても、運転するのはゲーラとメイスだけど。その行きと帰りに、後ろへ乗せてもらうだけだ。
 荷物を纏める。レジャーシートに、二リットルの魔法瓶の水筒。中に温かいスープを入れたものだ。他にも、それを温め直す手鍋に火打石など。バーニッシュだった頃には不要なものも詰め込んである。ついでに、飲料水もそれぞれ持参。もしものためだ。この時期の夜は寒いから、充分に着込む。バイクの向かい風もあるんだ。マフラーもしておいた方が、万全だろう。
 ゲーラの後ろに乗り込む。プロメポリスの郊外にあるコンテナの倉庫からバイクを出して、荒野へ真っ直ぐ走り出した。どんどん人の営みが集う文明の街から遠ざかり、厳しい自然が支配する広域に出る。夜風が冷たい。ジャケットにネックウォーマーだけというのに、ゲーラたちは寒くなさそうだ。インナーに暖かいのを着ているからだろうか? 気持ち厚着をしているような気もするけど。グンッと先頭を走るリオがカーブを切って止まる。続けて、ゲーラもメイスも止まった。「この辺りにしよう。見晴らしもいいし」「そうっすね。ここにしますか」「辺りになにもない分、なにかあったときがわかりやすいですからね」物騒な話もしているが、その通りだ。万が一誰かがきても、遠目からでもわかりやすい。そんな場所だった。(それと、他に走ってきた人がいても轢かれない場所だし)身の安全性を考えても、適した場所だった。
 レジャーシートを引く。続けてゲーラが寝袋を広げてマットレスの代わりにして、メイスが火を焚き始める。ボスはカップを用意した。ステンレスのものだ。「今日、お前たちと初めて野外で過ごすだろう? だから、僕の美味しいと思うものを買ったんだ」「ボス!!」「そんな! お気持ちだけでも有難いというのに!」「堅苦しいのは無しだぞ」ハハッとリオが笑う。リオの荷物を見れば、インスタントのスープばかりだ。お湯があれば、すぐにできる。「スープはどうしようか?」「そうだな。後にしようか。落ち着いた頃合いでも充分だろう」「そうだね」火をみんなで囲んでからでも遅くはないはずだ。バーニッシュだったら、炎を固めて丸太状のベンチができたのにな。カポッと持参したスープの様子を見てみる。蓋を開ければ、湯気が立ち上った。
「あちっ」
「あっ、結構冷めてないな。それから先にするか?」
「ボス。そいつぁいけねぇ。先にボスの持ってきたものからにしましょうぜ」
「そうです。まだ流星群が来るまでに時間はある。それからでも遅くはないでしょう」
「だが、沸騰するまで時間があるぞ? それまでに食べるのはどうだろう」
「そいつぁいけません。味が濃いヤツを先に食べると、ずっと上書きされちまいますぜ?」
「先に味の薄いものから食べましょう。そうすれば、洗う手間を省けれます」
「人生の含蓄みたいに呟いているようで悪いが、まさか食器を洗わずに使うなんてことは」
「してねぇですぜ!?」
「ちゃんと洗ってますって!!」
「水道代も止められたことないから、大丈夫だよ」
 ただ面倒臭がって洗うのを、といおうとしたところで口を塞がれた。ゲーラにポンッと手を置かれ、続けてメイスがゲーラの手ごと私の口を隠す。なんで、そこまで。ジト目になったら、ボスもジト目になっていた。
「なるほどね。お前たち、洗うのを面倒臭がっていたのか」
「っつっても、復興作業自体のことですぜ」
「ボスも、そのとき俺たちと同じことをしていたじゃないですか」
「ぐっ! あ、あれは使える水の量が少なかったから! し、仕方なく!」
「とりあえず味わうためにも、味の薄いものからということで」
「う、うん、そうだな!」
「ボス、話を逸らしちゃぁダメですぜ?」
「そうそう。まだ終わってないですからね?」
「うるさいな! もう!! お前たちにはあげないぞ!」
「んなっ! わ、悪かったですって、ボス!!」
「すみません。俺たちが調子に乗りました。ですから、ね?」
「そう頭を下げられても、僕は渡さないからな。ほら、ななし。お湯が沸いたようだぞ」
「うん。ゲーラとメイスにはあげないの?」
「当分、お預けだ。お前たちはココアでも飲んでろ!」
「くっ!!」
「そんな、くそっ。調子に乗り過ぎたか」
「その通りだ。反省しろ!」
 プイッとリオが顔を背ける。本当、こういうところが子どもっぽいよなぁ。と思いながらも、ブランケットを肩にかける。リオも、ゲーラもメイスも同じだ。外は寒い。夜なら尚更水蒸気の関係で寒い。日中と違い、空気がひんやりと、しっとりとしていた。火を囲む。ボスにいわれた通り、ゲーラとメイスはココアを飲んでいた。
「まっ、水じゃないだけまだマシってか」
「ミルクの方が美味いがな、ふぅ。贅沢はいえまい」
「なんだ。文句があるならいってみろ」
「荷物が増えるし、途中で中身が零れる可能性もあるから」
「ボトルに穴が空いてな。荷物が牛乳臭くなるのは、勘弁だぜ」
「水筒にも臭いが付くからな」
「だったら、家で大人しくしていればよかったんじゃないのか? わざわざ僕に付いてこなくても」
「おっと。それは禁句ですぜ。ボス」
「元からそういう不満はありませんので。ただ、ココアの味が混ざることを思いますと、どうしても」
 フッと哀愁を浮かべながら笑ったものだから、罪悪感が出たようだ。メイスのそれを見て、リオが「うっ」と呻いた。良心の呵責があるようだ。
「悪かったな。じゃぁ、一種類だけならいいぞ。ほら、好きなのを選べ」
「本当ですか! ボス!! 流石、懐の広いお方だ!」
「サンキュー、ボス! 恩に切りますぜ!! って、待てよ。メイス。この中から、味の薄いヤツを選べと!?」
「好みで選べばいいだろう。とりあえず、シチューを選ぶか」
「だったら俺もだ! 古今東西、ココアに乳製品は合うってンだッ!!」
「そうかなぁ」
「ケーキ味を選ばなかっただけ、まだ良心的じゃないか」
「それもそう思う。って、そういうのあるの?」
「あった」
 ストン、と腑に落ちたようにボスがいった。ついでに、話のオチもストンと落ちる。「とりあえず、ココアを飲み終えた後とするか」「だな」メイスとゲーラがそう話して、ココアを飲む。夜空を見上げてみたけど、まだ星が降る気配がなかった。
「来ないねー」
「流星群より早く来たからな」
「時間はまだありますし、ゆっくりしましょうぜ」
「寝転がって星を見る時間もありますからね」
 なんか、その前に寝そう。そう思いながら、ココアを飲んだ。


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