ある日の寒波日和(消火後)

 とても寒い。急に冬になるなんて卑怯だし、マンションのオーナーはまだ入れてくれない。ここ、マンション全体で暖房をかけるから、管理人が入れてくれないと入らないのだ。だから玄関先にあるヒーターのパイプは今、役立たずで。軽く蹴っても動いてくれない。もぞもぞと部屋から毛布を引っ張り出して、リビングに行く。最早テレビのあるリビングが一種の集合場所だった。ゲーラもメイスも同じことを考えて、それぞれ必要なものを持ち出している。ゲーラはブランケットで、メイスは毛布とクッション。それに格好も少し温かい感じだ。これに私も負けていない。フワフワの部屋着で防寒を図った。それでいつものソファに座って、毛布に包まる。既にテーブルの上に、リモコンとタブレットがある。このデバイスで、防寒を過ごすチャンネルを選べというらしい。いつものネットフリックスだ。(なにか面白いの、あるかな)随分と見尽くした。新しく発掘するしかないだろう。ゲーラが隣に座って、毛布を被る。私も毛布に入れようとしたけど、三人分には足りない。右端を僅かに私の背中に挟んで、自分だけ包む。メイスも同じように自分の右側へクッションを置いたあと、左端を私の背中に挟ませた。こちらも自分だけ包む。
 どの毛布も、三人分には足りないし、包むにしても中途半端に丈が足りない。私を真ん中にして、毛布と人の熱とで暖を取り始めた。「寒い」「こっちも寒いんだよ」「手足がかじかむ」そういって、ギュギュっと距離を詰める。ゲーラは胡坐を掻いて、メイスは片膝を立ててクッションを抱え込んだ。あっ、ちゃんと足を畳んでるの私しかいない。いつもより狭くなったソファで、リモコンを手にした。ポチポチと見たいヤツを選ぶ。
「どれ見よう」
「寒さを忘れられるヤツがいいぜ。マグマが飛び出すヤツとか、よくね!?」
「爆発物か? だとしたら、アクション一択だろうな」
「げぇ。銃とかナイフとか飛び出すヤツじゃん!」
「なんだよ。不服だってぇのか? え?」
「どこに嫌がる要素がある」
「絶対後で、立ち上がりそう」
 スッとテーブルの上を指したら、ゲーラとメイスが黙る。「そりゃぁ、そうだな」「確かに数本見るのに、ポップコーンやらの量が足りんな」「そこかよ」食料と飲料水の問題である。これは、アクション向けのラインナップではない。少なくとも、そう思った。
「温かいものも飲むんだし、しっとりとしたものでも良くない?」
「しっとりしたもん、ねぇ」
「湿り気のあるものなら、ホラーやミステリーものが一番だろう」
「なんでそれで、そっちの方に行くんだよ!」
「だったら悲恋で終わる恋愛ものでも見るか? 寝るだろ」
「そりゃ寝る」
「恋愛ものでも、前向きに終わるのがあるって」
「そもそも、ラブストーリーはお呼びじゃねぇ」
「スナック感覚で見るなら、特に止めはせんが」
 そもそも、とゲーラと同じようにメイスもいう。
「お前、恋愛ものとか楽しめるのか?」
「えっ。人間感情の機微に特化した方面のヤツじゃないの?」
「だろうと思ったぜ」
「期待したのが間違っていたか」
「なにそれ。なにを期待してたの?」
「うっせぇよ」
「有名なローマの休日も、どうせそれとしか見れんだろうしな」
「あっ、名前だけなら聞いたことある。有名なロマンス映画だって」
「ロマンスの意味、わかってんのかよ」
「どうせ役者の演技やその辺りしか見てないんだろう」
「どういうことなの? それのどこが、違うの?」
「違わねぇけどよ。やっぱ、ワイスピのスカイにしようぜ」
「アイスブレイクもいいだろう。憎い氷を叩き割れる」
「腹癒せにちょうどいいじゃねぇの。それにしようぜ」
「それ、もう見た」
「だったら、なにが見てぇってンだ」
「見ている間に考えろ。とりあえず、これにするぞ」
「ちぇっ。だったら、その間にゲームやってる」
「おー、やってろ。やってろ」
「音は落としておけよ、鑑賞中の邪魔になる」
「知ってる。もう、子ども扱いして」
「そうじゃねぇとやってらんねぇからだよ」
「本当にな。まったく」
「なに? どういうこと?」
 思わずゲームの電源を落としたけど、二人は答えてくれない。全然目も合わせてくれない。なにそれ。画面の中で、映画のテロップが流れ始めた。


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