ポッキーの山(消火後)

 ポリポリとポッキーを食べ進める。アメフトの試合がテレビから流れており、作曲を妨害する。ゲーラは試合の行く末を見守り、メイスはスランプに悩む。ななしは久しぶりの休日を寛いでいた。なにもせず、ダラダラ過ごせることは幸福だ。ナマケモノのように動かない。肩にかかる重みを気にしなかったゲーラが、振り向いた。コマーシャルである。ななしの顎を上げさせ、咥えたポッキーを食べる。ガリガリと外に出た分を食べて、食べかすの付いた唇をペロリと舐める。大半はゲーラが上から食べ進めたものによるものだ。我が物顔で「取ってやったぞ」と言いたげな様子に、ななしはジト目になる。「中々いうようになったじゃねぇの」とゲーラが感想を零す一方で「食べるなら、新しく出したらいいのに」とななしはぼやいた。なにも食欲だけで選んだとは、気付いていない。ポッキーの袋を取り寄せたななしは、もう一本を出して食べた。ゲーラも、そこから一本出す。コマーシャルが終わる。ななしが二本目を食べようとしたら、メイスが顔を上げた。膝の上にあるななしの足を抱え、自分に近寄るよう指示する。その手招きに答え、ななしが身体を起こす。近付くと、指で顎を支えられた。その状態で、メイスがななしの口にあるポッキーを外から食べ始め、中にあるものも食べようとする。だが視線で諫められ、キスで中断する。再開した試合に集中していたゲーラと、食べられたななしからだ。前者は何とも言い難い羞恥と照れの混ざった視線で、後者は「お前までも奪うのか」という批難がましい目だ。なんてこともなさそうに離れるメイスに、ななしはムッとする。「出して食べないの?」「目の前に出してあるだろう」「お前なぁ」すっ呆けるメイスにゲーラが呆れた。そうして過ごしていると、玄関の扉が開く。
 鍵はかかっている。ともすれば、合鍵を持っている人物だ。心当たりは一人いる。それ以外は、インターホンかスマートフォンのどちらかによる合図だ。
 その人物は玄関の鍵を開け終えると「邪魔するぞ」といって家の中に入る。我が物顔で鍵を閉めるが、特に部屋の住人は気にしない。ゲーラは背後へ身体を捻り、メイスは作曲の道具をテーブルに置く。腕をダランと垂らすゲーラと違い、肘掛けに腕をかけた。ななしは動かず、ポッキーを食べ続ける。薄暗い廊下を歩き、リビングに出る。外から来訪した者は、リオだった。
「相変わらずだな、お前たち。ところで、食うか?」
「これは、また」
「大量っすねぇ」
「わっ。全部ポッキー」
「なんだ。お前も食べていたところだったのか。トッポもあるぞ」
「なんだってまた、こんなにたくさん」
「貰ったんだ。ガロと一緒にいたら、大量にな」
「それはそれは、とてもモテましたね。ボス」
「冗談いうな、メイス」
「しっかし、年々ボスのファンも増えますねぇ。今じゃ、普通の人間のファンもいるって話じゃねぇっすか」
「あのなぁ、ゲーラ。そういう言い方は控えるべきだぞ」
「気ぃを付けますって」
「最近じゃ『バーニッシュ』も忘れられつつあるんだっけ?」
「あぁ、良いやら悪いやら。いや、楽観視は早いな」
「でしょうね」
「歴史の淘汰は、ヤバいんでしたっけ?」
「あぁ。だから、この状況に甘んじることはできないんだが」
「お菓子とかプレゼントとか貰うことも?」
「なんか、僕がしてきたことの意味が薄れてきてしまうような気がする」
「今じゃ、バーニングレスキューのアイドルっすもんね」
「マッドバーニッシュだった頃が懐かしいな」
「いうなッ! 僕だって我慢しているんだぞ!? 僕だって、たまには荒野を飛ばしたい」
「気持ちはわかる」
「すげぇ分かりますぜ」
「俺たちも、バイクを手に入れたら飛ばしたいですね」
「もう買ったんじゃないのか?」
「満足行く整備まで行けてないんですよ」
「パーツの入手も困難でよ」
「なんだ。改造をしているのか」
「コンテナ代も最近かかってるよ」
「出費が嵩むな」
「車庫が借りれれば、一番なんですがねぇ」
「それだと部屋一つ借りる分くらいの値段となる」
「世知辛いな」
 そういいながら、ドサッと持ってきたものを置く。ポッキーとトッポの山だ。どれも棒状のお菓子であり、外国からの輸入品である。ポッキーを食べていたななしは、ポカンとする。ゲーラもメイスもまた、想像以上の量に驚きを隠せなかった。
「こりゃぁ」
「ボス、ホストをやられてはどうです?」
「馬鹿いうな」
 衝撃の余り放ったメイスの一言に、リオは呆れ果てた。


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