映画を見てる(消火後)

(なんだ、この体勢)ななしはソファで寛ぎながら思った。片や身体をゲーラに預けており、片や足をメイスに預けている。ソファで座る場所がなく、二人の足の上に座る形となっていた。混乱するななしに構わず、ゲーラとメイスは再放送される映画を見る。延々と映画を垂れ流すチャンネルだ。この時間帯には古い有名な映画が流れており、見る層を限定させている。予想外の展開に、パッとゲーラが目を見開いた。
「おっ! 同じシチュエーションが前作にもあったよな?」
「『お約束』ってヤツだな。しかし、ストレスがない」
「スケートボードをやれるって、どこかにあったっけ?」
「作中で初めて現れて、そこから続編のお約束に繋がるわけだ」
「どういうことだよ」
「その時代なりの『お約束』だが、今でも見れるのは凄いな。音楽も良い」
「オメーはBGMを聞きてぇだけだろ」
「BGMは偉大だぞ?」
「あっ、車に突っ込んだ」
「これも『お約束』だ」
「そうかよ。にしても、思った以上の面白さだな」
「ネームバリューは伊達じゃないということだ」
「へぇ。有名なヤツなの?」
「あぁ。今もミュージカルで続編が出たりする。非公式のものだが」
「あ? メイス、テメェ。そういうのを見るのかよ?」
「音響も気になってな。インスピレーションは多様性な刺激の元で生まれやすいからな」
「そうなんだ、へぇ」
「オペラなんざ興味ねぇぜ」
「クラシックは正反対が過ぎる」
「どういうこと? ロックンロールとは違う?」
「そういうことだ」
「下らねぇ。あーあ、今ので流れちまったぜ」
「戻そう」
「巻き戻しだな」
 ななしが手を伸ばすよりも先に、メイスがリモコンを取る。ピッと会話で流れた分のシーンを巻き戻した。会話が始まる前のものに戻る。ななしはテーブルに置いたポップコーンを手に取り、食べ始めた。ゲーラもそれに気付き、容器の中に手を入れる。一掴みだ。ボロボロに落ちた分が、ゲーラとななしの身体に落ちる。メイスも釣られて、ポップコーンに手を伸ばした。ムシャムシャと食べる。ポップコーンの音は、映画の音を邪魔しない。
 画面の中で、軽快な会話劇が繰り広げられる。「宇宙の破壊?」「すげぇちんぷんかんぷんだぜ」「この時代のSF知識だな」と会話をしながら三人は映像を見る。タイムスリップが起き、タイムパラドックスを解消させるための説明がされていた。
「過去を変えたら、その未来が消えるってこと?」
「SFの定番だな」
「今となってはな。しかし、時代的なものを考慮しても感心せざるを得ない。ここまで引き込ませるとは」
「どーいう言い回しをしてンだよ」
「役者の台詞回しも声のトーンと発話するスピードも、実に合ってる」
「テンポが?」
「いわれてみりゃぁ、確かに演技も面白ぇもんな」
「様々なものを考慮しても、興味深い」
 冒頭で見せた予想を裏切り、観客をさらへ集中させる。暫く目が釘付けになり、会話をすることができなかった。息を呑む。
 ふと、エンドクレジットに入りななしはいった。
「これって、いつの時代に作られたものなの?」
「あーっと」
「一九八〇年代、随分と昔だな。殆ど化石みたいなものじゃないか? これ」
「世界大炎上で焼失を免れたのか? まぁ、映像はちぃっと荒っぽいのがあるようだが」
「リマスターっぽいよ、これ」
「どこで覚えたんだよ。その言葉」
「ちゃんと『リマスター』って言葉の意味をわかってて使っているか?」
「馬鹿にしてるの? ちゃんとデジタル映像に直したってこと!」
 プンプン、と怒りを露わにしながらななしは説明した。


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