指が切れた手当て(消火後・メイス)

 眺めているけど、いつまで経っても傷が治らない。(消毒したのに)ブンブンと手を振っていると、気付いたメイスが近付いてきた。なんか、不審そうに私を見ている。「なにやってんだ、お前」そう呆れたように聞いてきたから「傷」とだけ返す。「はぁ?」wounded≠フ一言に顔を顰めたから、もう少しだけ言葉を探した。(どこから説明したら、わかるんだろう)とりあえず、怪我をした初めからした方がいいかもしれない。
「えっと、紙で指を切った」
「ほう。で?」
「ゲーラに舐めてもらって、まだ治らない」
 結論を話すと、メイスがキョトンとする。「えっと」どう説明したらいいんだろう。「舐めると、消毒って」うん、これで伝わるかもしれない。断続的に伝えると、メイスが頭を押さえた。「はぁ」と溜息も付いている。「ゲーラのやつ」呆れたように、そう呟いた。
「来い。それじゃぁ、手当てにならんだろう」
「やっぱりならないの?」
「なんだ、気付いてたのか」
「バーニングレスキューの救助方法に、そういうのはなかったから」
 そこまでいうと、またメイスが溜息を吐く。「はぁ」と私の手首を握ったまま、空いた方の手で頭を押さえる。どうしてそうも、そんな行動ばかり取るんだろう。あっ、これぞ“rack one's brains≠チてヤツだろうか? 日本語に直すと『頭が痛い』に近い。うん、そのはず。でも、なんだって、なにに? そう首を傾げていたら、メイスが続けた。
「そうじゃなくてだな、ったく。世話が焼ける」
「じゃぁ、どういうこと? 唾でやるのは、水がないときの対処法?」
「最終手段だ。なるべく他人の唾液は避けた方がいいな」
「うーん、口内菌の関係とかで? なるの?」
「他人と自分とじゃ、免疫力が違うだろう」
「ワクチンの関係だ!」
「そうなる。ったく、知識が増えてもこれか」
 メイスが嫌そうに頭を振った。そのまま水の出るところへ連れて行かれて、キュッと蛇口の栓を捻る。すると、水がパシャ―ッと出た。流水だ。それに指を突っ込まれる。
「いたい、しみる!」
「我慢しろ。傷口に入った細菌を洗い流しているんだ」
「さいきん」
「習っただろ?」
「うん」
「で、傷口を清潔にしたあとに絆創膏なりガーゼなりを当てる」
「メイス、いつもポケットに入れておくの?」
「今日はたまたまだ。たまたま、役に立った」
 そう繰り返し念を押して、絆創膏の紙を剥がす。ペタッとパックリ裂けた傷口に貼った。ガーゼの面が、傷口に当たる。最後の尾が、ペリペリと捲れた。
「気を付けろよ」
「うん」
 人間社会、色々と大変だ。少し考えたことを忘れた。


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