紙で指が切れた(消火後・ゲーラ)

「いたっ」
 紙で指を切ってしまった。スパッと。綺麗に真皮までいったようで、ジンワリと血が滲んできた。端の方からプックリと、丸い赤いボタンが生まれる。そのまま待っていたら、治る気配がなかった。(あっ)もうバーニッシュじゃないことを思い出した。
(すぐに治るわけじゃなかった。でも)
 前に見た赤ちゃん、数時間したら傷が治っていたな。多分、人間の細胞による『自然治癒』のスピードが違うんだろう。だとしたら、プロメアの力で『自然治癒』のスピードを格段と上げていた、という仮説が生まれるかもしれない。(この辺り、エリス博士に聞いた方が早いかな?)またいつ会えるかは、わからないけど。
 ボーッと血が収まるのを待っていたら、ゲーラが気付いた。「あ?」と声を上げて、ツカツカと。ボーッと突っ立っている私に近付いた。私の見ているものを見ると、キュッと眉を顰めた。「なんだこれ」といいたそうである。
 ゲーラが上げている手首を掴んだ。
「どうしたんだ、これ」
 そうわからなさそうに聞くから、手元の紙を指す。「紙で、指が切れた」ちゃんと言葉にも出す。そうしたら、またゲーラの眉がギュギュギュッと動いた。皺がすごい。眉が両方吊り上がった。
「で、血が収まるまで待ってたっていうのかよ?」
「うん。バーニッシュのときと違って、すぐに治らないし、いつ治るのかなって」
「あのなぁ」
 はぁ、とゲーラが溜息を吐く。「このままじゃ、ろくに動けねぇだろ」いわれてみれば、そうである。ここから一歩も動けなかった。(どうしよう)とりあえず、傷の手当てをした方が──と思ったら、ゲーラがパクリ。私の血の滲んだ指を食べてしまった。
「え、っと」
 なにしてるんだろう。そのままじっと見ていたら、ゲーラの舌がペロリ。口の中で私の指を舐めた。ちょうど紙で切ったところだ。薄い皮に刺激が入って、ちょっと痛い。
「なんか、えっと」
 なんていうんだっけ? 言葉を探すと、ゲーラがチュパッと指を離す。
「『染みる』ってか」
sting≠ニいったゲーラに「うん、そう」と返す。刺すような感じもある。それで、大体間違ってなかった。「染みる」ゲーラのいったことを、そのまま返す。「そうかよ」雑に捨てられてしまった。また、ゲーラが傷を口の中に入れる。ちゅうっと吸われるものだから、真空に手を入れたときのことを思い出した。(あっ、なんかそういうのあったような)以前見たことを思い出していると、ペロリ。最後にゲーラが傷口を舐めて、手を離した。
 咥えられた指を見ると、まだ微かに血が滲んでいた。
「唾ぁ付けときゃ治るだろ」
「そうかなぁ」
「少なくとも、消毒にはなったはずだぜ」
「バーニングレスキューの救助方法には、なかったのに?」
「昔ながらの消毒法ってヤツだよ。まっ、少しは治まったはずだぜ」
 そういって、ゲーラが離れる。自分の指先を見るけど、まだうっすらと血が滲んでいる。けれども、痛みはほんの少しだけ治まったような気がした。
 ペロッと、自分で舐めてみる。「うぇ」指先にチリッと痛みが走った。


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