キスをお願い(ゲーラ)

 んっ、と両手を伸ばされる。キュッと目を瞑り、気持ち顎を反らしている。こういうときは、大抵強請っているときだ。ゲーラはそう認識し、ななしの伸ばした手に潜り込む。その腕が抱えられるように身を寄せれば、するするとななしが手を下ろした。(んだよ)ちぇっと思いながら、突き出された唇に吸い付く。軽く触れれば、ななしは満足する。薄く目を開けて確認をすれば、ななしはキョトンとしていた。ゲーラへ手を伸ばそうとして止める。少し考えて、ゲーラを見上げた。相手は逃げようとしない。感謝の代わりにキスを返した。(おっ、おぉ?)初めての反応に、ゲーラの脳が熱くなる。カッと腰の奥に熱が溜まり、ななしが離れる気配を感じて止める。両肩を掴み、ソファの座席へ無理矢理押し倒した。横に長い分、寝かせるスペースはある。馬乗りになり、ななしに覆い被さった。衝動のままに噛みつき、吸いながら口内に舌を入れる。驚いたななしがゲーラの胸も叩く。構わず味わい続ければ、どんどんと弱くなった。ギュッと弱々しく胸を押し返してくる。服を脱がそうとして身体を起こせば、ななしがすかさずバッテンを作った。腕を顔の前で交差し、バツ印である。据え膳を強いられ、ゲーラの機嫌が悪くなる。
「んだよ」
「だ、だめっ! そういうのは、まだだめ」
「はぁ? 自分から仕掛けておいてなにいってンだ。散々、互いに裸を見ただろ」
「そ、そういう気分じゃないから! だめなものは、だめっ!」
「あー? なんだよ。生理か? だったら、キスだけに留めておくがぁ?」
「まだだけど、キスだけに留めておけるのなら、それで」
「ぶちこみてぇが?」
「やだ。そういう気分じゃない」
「チッ!」
 荒々しく舌打ちをする。それでもななしは首を縦に振らない。「だめなのは、だめ」腕でバツ印を作り続ける。これ以上駄々を捏ねれば、非合意の形となる。はぁと溜息を吐き、交差した腕を解く。「わぁかったよ」嫌々と答え、ななしの要求を飲み込む。
「んじゃ、キスだけな。キスだけ。キスだけだぜ?」
「うん、それならいいよ」
 そっと目を閉じて、ゲーラに唇を差し出す。無防備だ。「ちぇっ」小さく悲しみを吐き捨て、体勢を直す。キスのしやすい方に変えると、その無防備さに吸い付いた。乱暴にしたい衝動を堪えて、あくまで可愛らしい程度のものに留める。何気なく、ふとしたときにしたものを思い出す。その感覚を思い出して、どうにか再現しようとした。それでも、唇の誘惑に耐えられない。自然と、甘く噛む。キスで惚けた声がななしの唇から漏れ、劣情をそそらせる。キスと甘噛みを繰り返し、下唇を吸い付いた。ついでに膝を後ろへ引き、肌に吸い付く。首筋にキスをすると、ななしがムッとする。ポカポカと相手の肩を叩いた。忌々しそうにゲーラが顔を上げる。その不機嫌そうな顔に、ななしは頬を膨らませた。
「だめなのは、だめ!」
「はぁ? あっ、腹減ってるか? 腹ぁ空いてるようなら、なにか作ってやるぜ」
「ミルク」
「牛乳を使ったものが良いってか。よしよし、了解したぜ。んじゃ、パパッと軽いモンを作ってやっからな」
「うん」
(チョロい)
 頭を撫でても額にキスを落としても、特に抵抗はない。やはり、胃袋から攻めた方が早い。緩慢に身体を起こし、ソファから立ち上がる。ゲーラはキッチンに入り、料理を始めた。といっても、本当に簡単なものである。鍋にミルクを入れ、火にかける。(簡単なミルクスープでいいか)沸騰しそうな温度になるまで、冷蔵庫の中をチェックした。ななしも遅れて、キッチンに入る。どうやら使う食材の確認をしたいようだ。
 軽い食事を作って、一緒に摂る。そのあと仕掛けたら、簡単に落ちた。


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