クローゼット整理(消火後)

 クローゼットの中を見ると、ある程度着るものと着ないものが固まっていた。これを見て、ななしは悩む。(あっ、リサイクルショップ)不要なものを売却して金銭を得る店だ。そこの存在を思い出し、ななしは服を整理することにした。
 要らないものを入れる袋を持ち出す。袋とはいえ、一泊二日はできそうなバッグだ。そこに全く着ていないものを入れて、クローゼットの中身を軽量化した。扉が開きっ放しであるものだから、部屋の外から中の様子が見える。ゲーラとメイスは不思議に思って、ななしの部屋を覗き込んだ。
 開けっ放しのクローゼットと服の識別を見て、納得する。
「あ? 金がねぇのかよ」
「なんだったら貸してやるぞ?」
 酒盛りをする気満々なのか、口にはスルメを手には缶ビールを構えている。プシュッと缶の開く音を聞きながら、ななしは答える。
「んー、着てないのが、あって。孤児院の子たちに渡すにしても、お金の方がいいかなって」
「まぁ、自分で好きなのを選べるに越したこたぁねぇなぁ」
「で、結構多いな」
「うん。それで、なんでそれ食べてるの?」
 同時にななしの腹が小さく鳴る。ゴクリ、と唾も小さく飲み込んだ。実際、ゲーラとメイスが海鮮の干物を食べたことはない。珍妙な食べ物と目するくらいだ。「あー、これか?」ゲーラが答える。「トサカ野郎に譲ってもらって、食ってみたらよ。んっ、中々美味くて」「酒に合う」カポーンッとメイスが開けた缶ビールを掲げた。「そっか」ななしは頷くものの、スルメから目を離さない。遠い故郷の料理をたまに思う身、スルメに目がないなんてことはなかった。
「それ、この辺りには売ってないよね? やっぱり輸入品を取り扱うところじゃないと、無理なのかな」
「あー、聞いたことねぇな。どうなんだよ、メイス」
「あのトサカなりの伝手があるんじゃないのか? あってもトンチキグッズだぞ。この辺りじゃ」
「やっぱりそうだよね。難しい」
 視線を下に下げてから、もう一度見る。やはり二人の口にあるスルメに向かっていた。その目線の示すものを見て、二人は目を合わせる。「やっぱり」「なぁ」そう互いの意見を目視で確かめると、部屋に入った。缶ビールをチェストの上に置き、脇に抱えた容器を見せる。
「ほらよ」
「やった! ありがとう!!」
「まったく、どこで覚えてきたんだが。ん?」
 喜ぶななしに呆れていると、バッグに詰め込んだ傾向に気付く。メイスの視線がバッグからクローゼットへ向かい、中にあるものを見た。選んで残されたものを見て、機嫌が良くなる。ななしにスルメを分け与えたゲーラは、片割れの奇妙な様子に気付いた。
「あ? なにヘラヘラ笑ってんだ、テメェ」
「フッ、かわいいところがあるじゃないか」
「なに変なこといってんだ?」
 説明しないメイスに、ゲーラがドン引きする。瞳孔を小さくし、げぇと口の両端を下げた。明らかに呆れている。そんな片割れの様子を気にせず、メイスは照れ臭そうに自分の鼻の下を触った。ななしのクローゼットに残されているのは、自分たちが分けた服である。無論、ななしもそれを着ることが多い。自然とななしの好みが自分たちのものへ近付いていた。この共通点をメイスは喜ばしく思う。
「まったく、素直じゃないやつめ」
「酔っ払ってんのか? テメェ」
「でも、メイス。テキーラ一本飲んでも酔っ払わなかったよ?」
「酔っ払ってはいたが変なことはいってなかったぜ。どうしちまったんだ、コイツ」
「で、空いたクローゼットにはなにを詰めるんだ。ん? 新しい服か?」
「気になるもの」
「そうか、そうか」
「意味わかんねぇ」
 服に無頓着なゲーラは、眉間を押さえて天を仰いだ。


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