半日以上鑑賞(消火後)

 極東の島国の製薬・食品会社で完全栄養食が出たらしい。しかも、ゼリー飲料の一袋分で一日に必要な栄養素の三分の一を採れる仕様だ。つまり、二袋の二食分で、一日に必要な栄養素の三分の二。もう少しいえば、これだけを摂取すればあとは間食だけで済む。もう、これだけの食事で必要ではないか──? と、どうにか簡単な文章と単語を使って説明したと思う。「これだけで一日で必要な栄養素の三分の一が取れるんだって」「なら、二つで三分の二、あとは食べなくても大丈夫だよね?」大体、このように説明したと思う。
 端的に説明したら、すごくゲーラとメイスが必死な形相をした。心配そうにしていて、どうにかなにかを止めようとしている。ガッシリと肩を掴まれた。
「ふざけんじゃねぇ!! んなものより、ちゃんとしたもんを食べろ! 肉とかサラダとか、その、ちゃんとしたもんを食べろ!!」
「ど、どうした? なにか味とか不服なのか? 近所のデリなりなんなり、美味いだろう?」
「どうしたの? 料理する手間も省けて」
「ダメだ、ダメだッ!! 緊急時における食料ならともかく、普段の食事では絶対に使うな!」
「そうだぞ? よく考えてもみろ。それだと、毎日の食事が味気なくなるだろう?」
「なるほど」
 これが、でぃすとぴあめし!! 咄嗟に見かけたものを探し出して、二人に見せた。「世界最後のメシ! でぃすとぴあメシ!」「いや、違うだろ」「これは終末SFをイメージして作ったものだな。ちゃんと書いてあるだろう」二人から真面目にツッコまれた。悲しい。こういうことじゃないの? いやでも落ち込んでしまう。
「だって、味気ないといったから」
「いや、味がないとまではいってねぇだろ。多分、これも味は付いているんだろうと思うぜ?」
「人工調味料のな。とはいえ、天然のものからじゃない。終末的な要素は満たしているか」
「なんだ、それ」
「そういう曲のイメージもあったりするんだ。結構面白いぞ」
「なになに? ゲーム? 漫画? アニメ? 映画?」
「漫画やアニメも見るようになったのか? お前」
「良いことだ。あとは小説も読めるといいな」
「小説も早く読めるようになりたい。それで、どれ?」
「まぁ、映画の方が手っ取り早いか」
「んな映画、あったか? あー、結構な年代モンの?」
「国外で作られたアニメだ。結構、ジャパンの古いアニメは面白いものが多いぞ」
「あんな間延びしたヤツがか? チラッと見たけどよ、特に面白くもなんともなかったぜ?」
「概念的なヤツがだ。もう少しいえば、イギリスのSF小説も同じことがいえる」
「どういうこと?」
「知らねぇ。これだから含蓄の広いヤツは」
「こういうものは知識が物をいう。どれ、スターウォーズから見始めるか」
「はぁ!? んなの見始めたらキリがねぇだろうがッ! 休憩時間も考えろ。絶対ぇ、一日じゃ足りねぇぞ」
「理論上は半日で見終える」
「ぶっ通しで見りゃぁな! ななしは初見だぜ? 初見にゃ、厳しいだろ」
「ふむ、それもそうか。なら、休憩も入れるか。長丁場にして」
「解説も合間に入れた方がいいかもな。質問されたら答えるようにして」
「といっても、ネタバレをしない範疇でだ。ついでに酒のツマミでも買っておくか」
「ゴムも買っておこうぜ。ゴム」
「それもそうだな。度数の低い方にして」
「酔い潰れねぇように、水やジュースも用意した方がいいだろ」
「そうだな。ななし、どれがいい?」
「水かオレンジジュースか、飲むか食べる物に合わせるもの。って、ちょっと待って?」
「じゃぁ、こっちでチョイスするか」
「そうしようぜ。なにか食いてぇモンはあるか? ななし」
「うん。ねぇ、ゲーラ」
「あ?」
「さっき、なんていってたの?」
「酔い覚ましのチーズも用意した方がいいだろ?」
 ダメだ。完全に忘れているような気がする。(でも)忘れてるってことは、つまり当日も忘れてるってこと? それなら問題ない。半日かかる、という言葉に悩む。つまり、ゲーラとメイスからの言葉だと、内容を理解するのに一日もかかるわけで。
「クッションも用意した方がいい?」
「おう。濡れてもいいヤツな」
「腰の高さも調整するなら、用意した方が早いか」
「待って?」
 私の想定するクッションと、ゲーラとメイスの想定するクッションが違う。けれど私の疑問をお構いなしに、二人が話を進める。「なら、ソファの座り心地も良くしねぇと」「別に、今のでも長時間の視聴に耐えれるだろう?」「そりゃぁ、そうだけどよ。まぁ、身体を動かすタイミングも入れねぇと」「ヤればいいだろ。それか食事の用意だな」「あー」「待って?」もう一度割り込んだけど、二人は無視だ。無言で煙草を取り出して、トントンと一本出している。シュッと煙草の一本がくしゃくしゃの紙の箱から出てきた。
「さっきから、関係ないことが出てる気がするんだけど、すたぁうおーずって作品を、見るんだよね?」
 二人はなにも答えない。無言で取り出した煙草を指に挟んで、口に咥える。ゲーラはがさごそとポケットの中を探していて、メイスはシュッとライターを取り出した。ジッポライターだ。蓋が首のように後ろへ落ちると、ボッと火が付く。メイスの煙草の先に、火が付いた。
「ねぇってば。すたぁ、なんとかの全作品を見るだけだよね?」
「んっ」
「ん、サンキュー」
「ねぇってば」
 間に挟んで無視しないで。ポイっとメイスが私の頭上からゲーラへライターを投げる。それをゲーラが受け取って、煙草に火を付けた。「ねぇってば」ゲーラの腕を掴む。無視の強行が酷い。すぱーっと一服を始めた。ゲーラから腕を離す。
「もう。全作品見るって思うからね」
「一日では足らんぞ」
「絶対ぇ頭がパンクするぜ」
「こういうときだけ相手して!! もう、知らない!」
「あ? 誰に向かっていってんだ、テメェ」
「そういって無視などできない癖に、よくいう」
(あっ、やばい)
 完全に捕食者の顔じゃん。ガッとゲーラに片手で頬を掴まれ、頬越しに歯に指を押し付けられる。口を開けない。メイスに至っては、後ろから睨みつけてくる。フーッとついでに煙草の煙を噴きかけられた。思わずギュッと目を瞑る。ケホッ、と咳みたいなのが鼻から出た。ゲーラからは噴きかけられなかったけど、代わりに鼻へがぶって噛まれるような真似をされる。振りだ。目が合うと、ゲーラの口に煙草が戻る。それを少しだけ吸って、ふぁ、と小さく煙を吐いた。顔の正面にぶつかる。
「うぇ」
 同時に顔から手が離される。口が自由になった。
「肺が真っ黒になっちゃう」
「もう唾液でベトベトだろ」
「それなら食道癌になるな」
「どっちもやだ。医療費がとてもかかっちゃう」
「もうバーニッシュじゃねぇからなぁ」
「自然治癒が医療に頼るしかなくなる」
 プカー、と天井に白っぽい煙が染み込んだ。


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