遅めのブランチ(消火後)

「ポテトチップスを料理に使うの?」
「そっちの方が早く済むからな」
 そういってゲーラは大きいスプーンを振るう。スペイン料理を代表するシェフのレシピをアレンジしたものだ。結構簡単にできる。「ネットで見つけたヤツでよ」「料理とかするの?」hobby≠ニ単語が出たからに、趣味での質問だろう。「いいや」「暇潰しに、だ」ゲーラは訂正を求める。それにななしは素直に頷いた。ゲーラの手元に戻る。ビリビリと破れた封から、大量のポテトチップスが落ちた。ボウルの中に、である。泡立て器で掻き混ぜた卵液がクッションとなる。ゲーラが渾身の力で掻き混ぜたものだから、白身と黄身の分離は見られなかった。通りがかったメイスが「うわ」と声を漏らす。
「それ、ポテトチップスの方が量が多くないか?」
「あ? このくらいでちょうどいいだろ」
「卵液に全て吸い込まれちゃう?」
「逆だ。ポテトチップスが卵液を吸い込む」
「それほどの量じゃねぇよ。寧ろレシピ通りだ」
「本当か?」
 訝しむメイスに対し「おう」とゲーラが威勢よく答える。フライパンを取り出し、熱するまで待つ。フッ素加工でなければ、熱してから引くのが吉だ。オリーブオイルを取り出し、卵液の様子を見る。まずまずだ。「皿を用意してくれ」料理を進めるゲーラの指示に従って、ななしが食器棚を開ける。「どれ?」尋ねたサイズに「コイツと同じくらい」と、ゲーラがフライパンを指す。ななしはそれを目安にして探した。メイスは冷蔵庫から、肉を探す。分厚いハムがあった。「おっ。ゲーラ、これも焼いてくれ」「後でな!」今はゲーラがキッチンの支配権を握っている。ヘラで外側から内側へ卵液を押し寄せ、全体に火を通す。もう少しで裏返すタイミングだ。ななしから皿を受け取り、フライパンの近くへ置く。メイスは調理台に立ち、まな板を取り出す。ナイフを出し、剥き出しのハムを切った。一枚にスライスし、それを食べる。指で抓み、あー、と開けた口を上に向けた。天からハムを入れる。
「おい。焼くんじゃなかったのかよ」
「我慢しきれん」
「ハムエッグ?」
「違ぇよ」
 フライパンの中身を滑らせるように皿へ移し、また戻す。引っ繰り返した状態だ。皿が蓋の代わりとなる。それも一瞬で終わる。ヘラで器用に浮かすと、調理台に戻した。オリーブオイルを、少量垂らす。「また?」「油が足りねぇからな」「風味付けじゃないのか、それ」メイスが分厚くハムを切る。三枚だ。それを出した皿の三枚へ盛り付ける。それぞれ一枚だ。焼き上がると、ゲーラが蓋に使った皿に完成品を入れる。まな板に置いたナイフを受け取り、三等分する。ななしはまな板を食洗器の中に入れた。メイスは出したハムを片付けている。
 三等分したポテトチップスのオムレツが、ヘラでそれぞれの皿に移された。
「よっしゃ。ブランチの完成だぜ」
「結構楽にできたな」
「サラダがほしい」
 脂っこいものを食べると、なにかサッパリしたもの──特に瑞々しいレタスなどがほしくなる。そう要望を伝えるななしに「あったらな」とゲーラが伝えた。メイスが「デリに行かないとないな」と現実を伝える。ななしは少し、残念そうな顔をした。代わりにオレンジジュースを出す。
「これで我慢しろ」
「柑橘系!」
「まぁ、果実だな」
 野菜ではないが、果実ではある。デリに行かない即物的な代用品に、ななしは了承する。遅めのブランチを始めた。テーブルに運ぶ。それぞれ床に散らばった服をラフに身に付けた状態であることは、いうまでもなかった。


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