冬にマフラーを与える(消火後)

「へっくち」
 ブルリと身震いをする。ななしがクシャミをしたことを見て、いそいそとゲーラとメイスがマフラーを外した。自分の首に巻いたものをである。ななしが巻いたものの上にゲーラがマフラーを巻き、その上にメイスが被せる。大判ストールのように広いものでも、マフラー二本分とあれば長さが足りなくなる。キュッと一巻きした状態で結ぶ。ななしはへにゃっとしかめっ面にした。
「重い」
「ちゃんと着込んでねぇのが、わりぃんだろうが」
「ゲーラほどちょこんと帽子を乗せてないもん」
「あぁ!?」
「確かに防寒性に疑いはあるがな。しかし、もう少し着込んだ方がいいのは事実だろう」
「過保護」
「いってろ」
「心配させたくないのなら、もう少し身なりに気を遣うことだな」
「むぅ」
 ぷくっと頬を膨らませて反抗する。それにゲーラもメイスも気に留めない。スタスタと先に行く。遅れてななしも付いてきた。その姿が視界に入ると、二人の足並みが遅くなる。本人に気付かれぬよう、ゆっくりとスピードを落とした。二人の歩幅に並んだななしがいう。
「とりあえず、返す」
「どーやって返すんだ」
「剥がせと?」
「邪魔しないでよ?」
 疑わしく二人を見て、恐る恐る結び目を解く。メイスのマフラーが落ちないように気を遣い、片手で引き寄せる。それをメイスに渡した。受け取ろうとしない。大判マフラーを片腕に引っ掛けながら、ゲーラの分も解いた。それを持ち主に渡す。ゲーラは受け取ろうとしない。ななしは「えぇ」と不満な声を上げた。
「なんで? ゲーラもメイスも、首元寒くないの?」
「このタートルネックが目に見えないのか?」
「馬ぁ鹿野郎。コートの襟元だけでも充分なんだよ」
「コートか? それ」
「うっせぇ。黙ってろ」
 ダウンジャケットの襟元を見せたゲーラに、メイスが言葉の間違いを指摘する。それにゲーラは特に言論を見せず、態度だけで否定した。これにもメイスは涼しい顔である。「ケッ」とメイスと反対の方向に吐き捨てると、スタスタと歩く。間に挟まれたななしは、頭上で行うやり取りを黙って見てた。ふと、テイクアウトのできる飲食店を見つける。
「あっ、オリジナルラテをやってるんだって。hot≠チぽい」
「あぁん? だったら、ソイラテでも頼むか? ミルクよりサッパリだぞ」
「人気と熱さを兼ねたか。ふむ、チョイスとしては中々だな」
「アーモンドミルクはアーモンドミルク単体で頼みたい」
「なら、入ってみるか?」
「ベジタリアン向けなら、乳製品は置いてないだろう」
「うえぇ。クリーミーなのが飲みたいのに」
「あー、ウィンナー珈琲ってか? だったら、帰って飲めばいいだろ」
「買って泡立て器で掻き混ぜて?」
「中々手間がかかるな。ケーキを作らないくらいなら、買った方が安いだろうに」
「他の料理に使えばいいじゃねぇか。それか、直で飲むかだ」
「美味しそう」
「胸焼けするぞ」
「冗談だっつーの」
「クリームを入れる飲み物、なかったっけ?」
「あるにはあるけどよ」
「とりあえず、後に回すか」
「ねぇ」
 ベジタリアン向けだと警戒し、店へ行く道を引き返す。帰路へ足が戻ったことを見ると、ななしは二人に尋ねた。
「まだしないの? マフラー」
「しねぇよ」
「お前が風邪を引くだろうに」
 勝手に使え、とばかりの態度を取る。それなのに、二人の鼻は赤かった。


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