誕生日の記念日(消火後)

 まさかの誕生日が判明した。本人曰く、うろ覚えらしい。それでもこの時期だと仮定して、語呂の良い感じの日付に選んだ。本人もそれで良いといっている。「んじゃ、誕生日パーティーをしねぇとな」とゲーラがいうと「えっ」とななしが驚いた。どうやら、そのように祝うとは思ってもいなかったのらしい。「なにか不服か」とメイスが問えば「いや」とななしが返す。続けて、こう返した。
「身内だけで祝うものだったから。そんな、大層なものとか人を呼ぶとかとは思わなくて」
「はぁ? 村にいた頃も、誕生日迎えたヤツを盛大に祝ったじゃねぇか。できる範囲でだけどよ」
「あれをなんだと思ってたんだ」
「いや、景気付け? あまり娯楽がないものだといってたし」
「あっただろ。アナログだけどよ」
「あったな。ちんちろりんや囲碁やらチェスやらなにやらと」
「意外と、島国由来のが多いよね」
「長く丈夫に使えるが、愛国心には勝てねぇみたいだ」
「棄てられた街や村だと、骨董品として多く残されていたからな」
「それが、フリーズフォースによって粉々になったと」
「はーあ」
「思い出しただけで憂鬱になる」
 その落胆を示すように、ゲーラとメイスが脱力した。ベッドや椅子に重く凭れる。勝手に部屋の物を使われているななしは「早く退いてほしい」と願った。目でそう伝えていた。それを二人は無碍にする。
「で、なにか欲しいモンはあるか?」
「え?」
「誕生日にだ。仮にこの日と決めても、欲しいものはあるだろう? 手の届く範囲で頼むぞ」
「届かない範囲って、どんなの?」
「地球丸ごと」
「クルーザーで世界一周旅行」
「流石に無理そう」
 二人の出した例題に、ななしは頷く。『地球の買い占め』『クルーザーで世界一周』などの範囲まで行かなければ、なんでもいいらしい。少し考えて、ななしは口にした。顎に指を当てる。
「特にない、かな」
「はぁ!? おいおい、一つや二つはあるだろ?」
「なんでもいいんだぞ? なんだったら、誰かの一日を自由にできる券とか」
「誰かを誘拐するの?」
「しねぇよ」
「目の前にいるだろう。おっと、金の担保にするとかの話は無しだぞ?」
「それだと犯罪だもんね」
 わかる、とななしは頷く。「そうじゃねぇんだよなぁ」と同時に二人は思うが、口には出さない。代わりに顔が物語っていた。
「一日誘拐券?」
「しねぇっつってンだろ」
「お望みとあれば、お前を浚ってみるが?」
「なにそれ面白い。アトラクションとか、楽しいよね」
 ちんぷんかんぷんなやり取りをしていると、思わぬところで回答が返る。なるほど、アトラクションものが好きと。これに二人は顔を合わせた。
「それなら、できそうだぜ」
「あぁ。流石に貸し切りは難しそうだがな」
「えっ、誘拐と最後は爆破をバックに終わるアトラクション映画のデモンストレーションをやるの?」
「やらねぇよ」
「無茶な注文をいうな。精々、できる範囲で叶えられるだけだ」
「できる範囲で」
 二人が話す中で強調する単語を聞き取るが、どうしても眠気が先立つ。手の中にあるお菓子のパッケージを見る。どうやら発売開始から二十五年が経ったのらしい。『にこにこ二五周年!』と駄洒落をいう噴き出しがあった。それにななしの記憶が一気に塗り替えられた。
(『にこにこ』『二五周年』)
 この二つの共通点に興味が移る。二人の話す『誕生日』はお菓子の記念日に塗り替えられた。悲しいことに、これに気付くのはもう少し後になってからである。とっちらかりの終わり。


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