ベッドにいた(消火後)

 なんか、いつもより温かく感じる。布団や毛布の隙間風を感じないというか。おかげで、いつもより熟睡できたような気がする。グッと体を下に沈み込ませて、腕を伸ばす。ベッドの頭と拳が触れた。もぞもぞと枕に頭を戻す。ふぁ、ともう一度欠伸をして目を開けたら、そこにいないはずの人間がいた。
「うっ」
 わ、と声が出るよりも先に壁へぶつかる。可笑しい。そこまで端っこにいないはずなのに。そもそも、ベッドの両脇に壁なんてなかった! 驚いて振り返ると、ゲーラがいた。私より先に起きていたのか、こちらを見る目は眠そう。ショボショボと重たい瞬きをしていた。枕も、ちょっと足りないのか。自分の腕を枕にしている。
「起きたか」
 それならそうと、なんで少し残念そうなのか。ゲーラも少し、寝起きのように声も掠れている。声が低い。
「えっ、なんで」
 かくいう私も、ちょっと声が掠れて低くなっていた。というか、寝たときに二人はいなかったはず。どこかへ出かけていたようだったし、寝たときに帰ってもいなかった。(つまり、帰ってから潜り込んだってこと?)ゲーラが欠伸をする。なんか、酒臭かった。
「酔っ払っちまったときに、一緒に寝ちまった」
「一緒に、って」
「ゲロ吐くほど飲んじゃいねぇよ」
 それは助かったけど、違う。布団が動く。ちょっと見たら、メイスが寝返りを打っていた。とてもよく寝ている。
「それで、酔った拍子で?」
「多分千鳥足だったろうと思うぜ? 靴を脱いでる分、まだマシだろ」
「足元のシーツに残ってそう」
 爪先に感じるジャリジャリ感は、それだったのか。メイスの長い髪を触る。相変わらずサラサラで、ツヤツヤだ。シーツの上に散らばるのを撫でると、なんか洗濯板を思い出す。三角形で、目が細かい。一房を取り、手の中で三つに分ける。
「あとで洗うって」
「本当かなぁ」
「おう。マジだ、マジ」
 といっても、動く気配はない。というか、ずっとこの調子でいたのかな。寝相。下になってる部分、痺れないのかな。トントンとゲーラの手が私のお腹を叩く。ずっと腰に腕を回されたようだった。
「飲んでたの」
「おう」
「帰ったの、明け方くらい?」
「うんにゃ、〇時を回ってたなぁ」
「じゃぁ、三時近くだ」
 私の睡眠時間を考えると、大体その頃だと熟睡している。物音がしても、中々気付かない。三時まで起きてないし、多分その頃だろう。ゲーラが身体を浮かす。寝相を変えるかと思ったら、枕を引き寄せてきた。私の分が、ちょっと遠ざかる。メイスは一人で枕を一つ使い続けていた。枕と枕の重なる部分が、減る。
「飲んでたの」
「おう。って、さっきも聞いたな。それ」
「飲んでたの」
「そんなに気になるのかよ」
「そんなに美味しいのが出たのかなって。お酒とか、バーの雰囲気とか」
 二人で楽しんでいたというよりは、そっちの方が気にかかる。そこまで長居するほどなら、私も行きたかった。私も私で、時間が空いたから二人のいない間に色んな用事を済ませたけれども。ポリポリと頬を掻く音が聞こえる。ゲーラだ。メイスが寝返りを打ったけど、髪はそんなに引っ張られなかった。ちょっと腕を伸ばして、三つ編みの続きをする。
「あー、んなに気になるようだったら今度連れてく。連れてってやるよ。それで機嫌直せって」
「時間があったときとか、予定の合った日に?」
「そういうことになる」
「おい」
 のっそりと、メイスの目が重く開く。なんだか瞼が腫れぼったく感じる。寝起きだからか、目付きがとても鋭く悪いように感じた。
「勝手に、んじゃ、ねぇ」
「また寝た」
「二度寝だな」
 グルッとメイスの顔が枕に沈む。今度はうつ伏せに突っ伏した。寝息が聞こえそう。三つ編みは、無事である。ちょっと長い編み目を置いて、続きを編む。
「ななし」
 と名前を呼ばれたものだから、視線だけを上げる。枕に突っ伏したメイスが、枕と髪の隙間から私を見てた。ジッと見つめるだけだから、なにをいいたいのかもわからない。三つ編みを編む。別に、これに対して文句をいってるわけではなさそうだ。
「なんで」
 気になったことを尋ねる。
「一緒に寝てるの?」
「はぁ? ダブルベッドは伊達じゃねぇだろ」
「寝る」
 メイスに至っては答えないし、完全に二度寝を決めてしまった。プイッと背中を向かれる。三つ編みの続きは、してもいいらしい。途中まで編んだのをそのままにして、手近な一房を手に取る。ちょっと根元に近いところから、三つ編みを始めた。
「なんか、起きたらそれだらけになっていそうだな」
「ならないかも」
 現に、私はとても眠い。うとうととしながら、メイスの髪で三つ編みを続けた。


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