新しい家電(消火後)

 ドンッとキッチンカウンターに機械が置かれる。お湯のポット、ではない。注ぎ口と思われる下には、大きな銀のボウル。カップみたいな取っ手も付いていた。オマケに、銀のボウルを置くためだと思われる専用の台も、予めポットみたいなのと一体化している。
「なにこれ」
 不思議に思って尋ねると、二人が意味のわからなさそうな顔をした。一瞬だけ、不意を突かれたようなキョトンとしたような、そんな感じの顔を一瞬だけ。
「知らねぇのか?」
「スタンドミキサーだぞ? 前からほしいと思ってたんだ」
「へー」
 メイスだけ? と思ってゲーラを見たら、こっちもキョトンとした顔をする。なんだ「違うのか?」といいたげな顔は。なんか仲間外れみたいな気分も味わってしまって、ムッとする。私にとっては未知の品物だ。『スタンドミキサー』だなんて。結構頑丈らしく、突いてみてもビクともしない。
「あると便利なんだぜ? これ」
「知らない。初めて見るものだし、知らないものだもん」
「一般的とはいえ、電気がないと動かないからな。あの頃は手動でやるしかなかった」
「今はどうなの?」
「あん? ようやく買える分だけの金が溜まって念願の、って感じだぜ?」
「これで料理をする手間も省けるってわけだ。時短にもなるんだぞ?」
「知らない」
 そもそも買うことも、そのためにお金を溜めていたことも知らない。プイッと顔を背ける。「んだよ。付き合い悪ぃなぁ」とゲーラが突っかかってくるけど、無視する。メイスも「買った分だけの価値はあるぞ?」と聞いてくるけど、無視する。キッチンから出て、ソファに戻る。靴を脱いで、ソファを独り占めした。誰も座らせるものか。うつ伏せで寝転がる。手近なクッションに顔を埋めてたら、真上から声が降ってきた。
「拗ねんな。お前だけ使うなっつー話じゃねぇんだぞ」
「これで人並みに楽ができる、という話だからな? スクランブルエッグも、お手の物だ」
「調理に使う人の手も、減るね」
「まぁ、手間かかる分をコイツがやってくれるからな」
「おかげで、浮いた時間の分だけ楽しめるだろう?」
「なにが?」
 一緒に作る時間が減るのに? ちょっと顔を上げて尋ねたら、二人が黙った。おい、黙るな。思わず言葉が荒くなる。ムッとして起き上がると、二人して目を逸らしている。一切、こっちに合わすつもりがない。ちゃんと人の目を見て、話してほしい。
「なにが?」
 と、もう一回聞いてみる。それでも二人の目が泳いで、気まずそうに落ちた。
「いや、よ」
「なにをどこから話すべきか」
 ちゃんと誤魔化さないで、話してほしい。足でパスンパスンとソファを叩いた。


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