肉食べたいけど肉がない(前日譚後本編前)

 今日の日付は『二九』だ。だから村の話題にやたらと『肉』の話題が出る。そんなに食べたいんだろうか? 聞けば聞くほど、不思議に思う。物資調達班も、頑張って肉を探していたようだ。けれど収穫なし。肉のない悲しみからか「強奪かけるか」なんて話を持ち出してきた。ボスがそういうの、駄目っていってなかったっけ? どうにか知ってる言葉で説明する。でも皆は納得した様子がない。「じゃぁ、どうする?」と代わりの案を考えているようだ。私も考える。この場を通りかかったメイスが、口を出してきた。
「なら、鳥を狩ればいいんじゃないのか」
 なるほど。それも一理ある。けれど量はどうだろう? 皆は「足りるか?」「いや百匹くらい狩らねぇと全員は足りないだろ」といっていた。そんなに食べるの?
「ベジタリアンはいねぇのか」
 と今度はゲーラが口を挟んできた。というか、二人してなにをやってたんだろう。また別行動でなにか調べたりしてたのかな。ボスからの信頼も厚いしなぁ。流石幹部、右腕!
「右腕って、食べれたっけ」
「あん? 羽なんざ食っても旨くねぇだろ」
「手羽先か? なら食える部分はあるが、あとは羽だぞ? 食用部分は少なく、羽はあれだな。色々と使える」
 なら鳥を狩るのも悪くはないか。でも、最近耳にする『かんきょうはかい』とやらに繋がるような気がする。
「地球に優しく、環境に優しく、狩る?」
「できねぇ相談だな。そいつぁ」
「既にバーニッシュの暴走で地殻変動も起きたんだぞ? やっても手遅れだろう」
「健やかに我が肉我が血となれ、ってヤツ?」
「おい。どこで覚えたんだ。その言葉」
「なんとなく予想はつくぞ。ゲームマニアか」
 そういえば、ゲームマニア発狂しかけていたような気がする。今はアナログゲームとかなんとかで、命を繋いでいるとかなんとか。
「やっぱり、お肉は大事なのかな?」
「肉は人間の命だからな。そりゃ大事だろ」
「食えないヤツは豆や大豆などで代用するが。まぁ、大部分はそうじゃないからな」
「お肉大事。あっ、水牛は? 野生のなら大丈夫なん」
 じゃ、と思ったことを喋ったら皆が黙った。ゲーラとメイスは、なんか難しい顔をして考え込んでいる。
「もう少し、東に行かねぇとなかったか?」
「あってもワニだろう。恐らく、この周辺でいえば」
「なにもないだだっ広い荒野にか?」
 すかさず反論がくる。いわれてみれば、大きい生物は見かけたことがない。もう少し飛ばして、残る森林エリアにならいるかもしれない。
「少し遠出をすれば?」
「まぁ、狩れそうなとこはあるかもしれねぇがなぁ」
「時間と距離を考えろ。この人数を賄える量だぞ? 明らかに足りないだろ」
「じゃぁ、マッハで走る」
「肉が腐る」
「というか削げ落ちるだろう。速度で」
「そうなの?」
「それより焦げるかと思う」
 反論された。つまり、どう足掻いても無理ってことじゃん。「そんなに食べたいの?」と皆に聞けば「まぁ」「できたら」と返される。消極的積極的な意見。『できたら食べたい』とのことだ。でも、どうしよう? そこまで満足できる量は足らない。
「どうしたんだ?」
 長引く話が気にかかったんだろう。ボスがきた。「ボス」「いや、実は」と皆が一斉に話してくる。「おい、待て」「一度に話したらわからんだろ」と二人が止めようとした。
「いや、いい。聞いたところ、食糧に問題があると見えたんだが、そうなのか?」
 それに皆がグッと意見を閉じた。食糧が腐る、駄目になる、奪われた、勝手に減ったとかの事件じゃない。各々『食べたい』という意志に基づいての会議だ。
 メイスが悩むように口を開く。
「実は、彼らの食べたいものがありましてね」
「肉が食いたいんだと。バーニッシュになる前は、この頃になると肉が安売りされるかどうとかで」
「あぁ」
 言い淀むメイスの代わりに、ゲーラがズバッと言い切った。リオも頷く。クルッと顔を上げた。
「この頃って?」
「なんか、その日に因んでみたい」
「その日に、って? いつの日だ?」
「二九日ですぜ。月末にかけてのバラマキっすよ」
「肉屋の宣伝にもなりますからね。そういうところもあるんです」
「へぇ。そうなのか。まぁ、とにかく肉を食べたいんだな?」
 その念押しに、皆が「へぇ」「まぁ」「そうですね」と落ち込んで答える。一回りも年下の子に、返す言葉もないからなのかな。村の人がそう、ちょっと愚痴ってたのを聞いたことがある。
「じゃあ、急いで狩りに行くとするか。少しだけ空けるだけだから、村の防衛は大丈夫だよな?」
「へっ? まー、下手な動きは見れてねぇっぽいし、警備だけで大丈夫だろうと思いますぜ」
「なにかあったら、狼煙を上げるでもいいかと」
「そのときは、崩壊寸前ってこと?」
「見つからないことを祈るのみだな。くれぐれも注意するように言いつけてくれ」
 あっ、何気に伝言を頼んできた。受け取ったのは、皆の方らしい。「はっ!」「へい!」「了解!」とか叫んで、散らばった。
「とりあえず、このメンバーだとどうにか調達できるよな?」
「大丈夫だろうと思いますぜ。川辺に行きゃぁ、なんとかなるでしょうし」
「一番大きな獲物がいるといいな。もしくは、ねぐらを狙うか」
「大きい獲物? ベアーだ、ベアー」
「猪もいいな。豚肉は美味い」
「熊肉と豚肉。この二つを狙いましょうか」
「燻製にすれば日持ちがしますし、そうしますか」
 獲物が決まったっぽい。ボスが「あぁ」と頷く。「そうしよう」と続けた。
「じゃぁ、バイクの準備をして」
「いや、お前はするな」
「迷子になるからやめておけ。温存しておけ」
「わかりやすいな。お前たち」
 なんかボスがいってた。


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