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 世界規模に展開する有名な巨大動画共有サービスに接続する。ある一室に存在するテレビは、その役割を担っていた。該当地域やサービスを提供する局と契約していないため、つけると通販番組しか流れない。だが、スマートフォンやタブレット、パソコンから接続すると違う。有線コードでデバイスの映像情報を読み込み、大画面でそれらを映す。今回もそうだった。メイスは爪を切り、ゲーラは映像を眺める。ななしは手持ちのデバイスで、別のものを探していた。パチンと爪が飛ぶ。爪やすりで形を整え、ネイルオイルで保湿を行う。それが終わると、ななしの両足を持ち上げた。両膝に腕を入れ、ソファへ横たわらせようとする。ななしはそれに抵抗をしない。スマートフォンで検索をかけながら、体を横にした。靴を脱がされて裸足になる。ななしの足がメイスの膝の上に乗り、メイスの手がななしの手を引っ張る。検索を中断されたものだから、ななしはスマートフォンを置いた。ソファの背凭れと座面の間に挟む。ゲーラが背凭れの代わりとなった。肩へいきなり落ちた重さに文句もいわず、寧ろ体勢を変える。右足の靴を脱ぎ、ソファの背凭れへ膝を曲げる。座面へ寝かすと、体を少し捻らせた。顔はテレビに向かったままである。手持無沙汰になったななしも、テレビを見る。画面の中では、ビルが派手に爆破されていた。赤と黄色とオレンジの作り出す、激しい燃焼である。火祭りという小ささではない。派手な炎のカーニバルというほど、連動性はない。爆発は爆発である。感情の爆発、炎の爆発といった方が正しい。ビルの爆発が終わり、黒い煙が出始めると避難したキャラクターたちにカメラが移った。パチンと爪が飛ぶ。メイスはななしの短くなった爪を見て、切断面をなぞり、少し考えてから次へ行く。ゲーラはななしを後ろから抱え込みながら、終わりを迎える映画を眺めた。ななしもまた、同様に眺める。ショートフィルムの出来は上々、インターネット上で評価が高いことも頷ける。パチンと音が鳴る。ななしの両手の爪は短くなった。形を見つめてから、メイスが爪やすりを取り出す。細かい目が粗い切断面を整え、滑らかにしていく。白い粉が吹いた。それを気にせず削る。映像が終わる。次の映像を選択しようと、ゲーラが手を伸ばす。候補に挙がる一覧へ目をやろうとした途端、パッと映像が切り替わった。
「おっ」
 広告の欄にニュース速報である。販促動画の代わりに公益の広報が出るとは、いったい何事か。メイスも顔を上げる。ななしが文字を読むよりも長く、テロップが過ぎた。右端からもう一度、同じ文章の冒頭が出てくる。
『今まで行方の知れなかった人たちが大量に発見され』『彼らは救出され』『警察は組織的犯行だと見て、今も犯人の行方を』とニュースキャスターが読み上げていた。「ほう」とゲーラが感嘆の息を吐く。「良いニュースじゃないか」とメイスが頷いた。ただ、ななしが追い付いていない。パッと切り替わった映像に、ななしが指差す。
「えっと、今。なんていったの?」
「あー? 今まで行方不明になってた連中が全員、見つかったんだとよ」
「違うな。行方不明者としてリストに挙がっていた全体の大部分が、だ。別の要因で見つかってないヤツがいる」
「同じじゃねぇか」
「違うだろ」
「それで原因はわからないんだ」
「警察は組織的犯行と見てる、と流れてたがな」
「まー、プロメアっつー訳のわかんねぇ宇宙の生命体が地球のコアにいたこともあるンだ。未知の生命体の仕業っつー線もあンだろ」
「知らんな」
「もしかしたら、映画であるかも」
「ドキュメンタリー、ってか」
「どちらかといえばサイエンス・フィクションだろう。略してSF」
「スペース・ファンタジーじゃないんだ」
「そっちの方が、印象強ぇけどな」
「サイエンスらしいな、Sのスペルは」
「へぇ」
「知らねぇな」
「科学っていうと、やはりラボのイメージが強いからな」
「っつーと、マッドマックスは」
「世紀末映画だ」
「せいきまつえいが」
「そっちの方が早ぇよなぁ」
 アクション映画、とは誰もいわない。最後に同音の韻を踏み、ニュースが途切れる音を聞く。またパチンと音が聞こえる。今度はプシャッと音も出てきた。動画の広告である。画面の中で、缶ビールが出てくる。視線がそっちへ流れたが、飲む気にはなれなかった。


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