24と25の0:00(前日譚前)

 体内で炎が燃える。普通の人にとっては、かじかむ寒さかもしれない。けど、私たちにとってはちょうどいいくらいの涼しさだ。真夏日に涼む木陰みたいな暑さに、体感温度が和らぐ。真夜中だから、燃やさなければ人目に付かない。頭上からの監視者もいない。荒野の中を走って、見つけた隠れ家に潜り込む。(まるで、野ネズミみたいな暮らし方だな)昔読んだ絵本を、思い出した。隠れ家といっても、ちゃんとした建物じゃない。朽ち果てて打ち捨てられたところで、電化製品も動かない。テレビなんて、その筆頭だ。砂嵐すら映さない。オマケに壁や屋根に穴もあいている。隙間風も吹き込む。けれど野晒しで寝るよりマシだ。
 パチッと火の粉が飛ぶ。力が弱いと、普通の人と同じように焚き火を必要とする。それに、固まっていた方が、なにかというときに便利だ。陣形、を組むときもあるのかな。背中を預け合って、円陣。円陣で四方八方の敵に当たる方が、生存率が高いと聞いた。あと、人数。うん、人数の把握が便利だ。ボーッとつまらないことを考えてたら、空から白い粉が降ってきた。触れると、冷たい。指に触れた途端、消えた。指先から火を出すと、触れる前に消える。
「ホワイトクリスマスか」
 ふと、空を見上げたメイスが呟いた。ほわいとくりすます、白いクリスマス? そう思ってると、ゲーラが「あー」と頷く。呻いているようにも感じた。
「そういや、今日でクリスマスだったか?」
「順当に数えれば、そうなる。見えた街並みから、そうだろう」
「この時期だと賑わうからなぁ」
 なんか、クリスマスだと特別なことが起こるんだろうか? よくわからない。「なにそれ」と尋ねたら、二人が目を丸くした。ゲーラが信じられなさそうに、聞いてくる。
「はっ、知らねぇのか? クリスマスだぞ?」
「なにそれ」
「あぁ、文化圏が違うのか? だったら仕方ない」
 逆にメイスが理解を示してくる。けど、いってることがよくわからない。なんか、専門的な用語が多くて、少し話が入ってこない。
「えーっと、つまり、お祭りをする日? お祝いをする日?」
「祭りというよりは、国民的な行事みたいなもんだな」
「要するに、一年の終わりを祝うようなモンだ。馬鹿騒ぎをするんだよ。パーッとな」
「一年の、終わり?」
 つまり、もう一月一日になったということ? 来年になったと? カウントダウンも、もう終わったのだろうか?
「もう一月なの?」
「はぁ? 年越しはまだだぜ?」
「なるほど。年末の祝いが被ってるのか。こっちだと花火を打ち上げるくらいだな」
「花火」
"fireworks"と出た前に"set off"とあったから、多分"fireworks"は花火なだろう。メイスのパァっと開いた手の感じから、そうと思える。("fire flower"なんてものじゃ、なかったんだ)なんか、生まれの違いを感じる。
「わかるか? 花火だぜ? こう、バーッと火花が散ってな」
「なんとなく」
「原材料に、確か火薬があったはずだ。職人の腕で作るのらしい。配列が肝心だとの噂だ」
「そうなんだ」
 断片的にしか、聞き取れない。"material"に"powder"、"craft""man"とも出てたような気がする。ゲーラの方が、まだなんとなくわかりやすい。すごくキラキラと、スパークするのらしい。多分、私の知る『花火』と同じなはず。膝を抱える。ぼんやりと、二人の話からその場面を想像した。
「なんか、お祭りだね」
「あー、いわれてみりゃぁ、そうかもしれねぇな。確かに、馬鹿騒ぎもする」
「だが、カウントダウンで盛り上がるだけだろう? クリスマスほどの盛況はないはずだ」
「屋台は出るだろ?」
「出るには出るが、カウントダウンに因んだことか?」
「なにか、特別なものが出るの?」
「いんや」
 ゲーラが否定をする。
「別に、なんにも出ねぇな。お祭りときたら、コレ! といったモンが出るばかりだ」
「コレ! といったもの」
「例えばチュロス、次にバーガー」
「バーガーはどこでも売ってンだろ」
「年越し専用の限定品が出るときもある」
「絶対ぇじゃねぇだろ」
「だな。イベント限定で出るものといえば」
「いべんと」
「季節限定ともいうぜ」
「やはり、クリスマスだな。クリスマスの時期が、一番賑やかになる」
「にぎやか」
"merry"ときたから、やっぱりお祝い事の雰囲気なんだろうか? それでも、なんか二人の横顔には、懐かしさを思い出すような顔をしている。
「騒がしいともいうな」
「ノイジー」
「馬鹿騒ぎもするからなぁ。まっ、クリスマスといやぁ、サンタだな。サンタのおじさん」
「サンタ! それは知ってる」
「そうか、そうか。サンタは全世界共通の認識だな」
「っつーか、近代文明の人間なら知ってンだろ。知らねぇのは未開拓の原住民だけだぜ?」
「えっと、え?」
「誰かに聞かれたら怒られるぞ? まぁ、愛されてる子どもなら、サンタクロースからのプレゼントがあるってことだ」
「へぇ」
 途中聞き取れなかったけど、やっぱりサンタの認識は合っている。そっか、サンタにプレゼントを貰えるのは当たり前なのか。ここでも。
「他の子も、貰えたのかな」
「さぁな。ただでさえバーニッシュだ。誰かがサンタ役をやらねぇと、貰えねぇかもな」
「もしや、俺たちに貰えると期待しているのか? それは残念なお知らせだ。俺たちはもう、成人している」
 ゲーラは大きく頭を振ってから、ポツリと悲しそうに呟いたし、メイスは人差し指を立てて注意を始める。"already""adult"、もう大人なのか。メイス。
「おとな」
「まー、お前の場合はな、うん。もう少し勉強してから出直そうな。なっ?」
「色々と遅れている分もあるからな。それを取り戻すうちは、サンタもプレゼントをくれるだろうよ」
「よくわかんない」
 ゲーラからは身体を寄せられたし、メイスからは額を手でグリグリとされた。けど、なんとなく慰められたような気はした。多分、悪気はない。「まぁ、なんだ」と、ゲーラが焚き火を見ながら呟く。
「今日はクリスマスってこった」
「メリークリスマスってヤツだな。こんなところでいうのも、どうかと思うが」
「ふぅん。どんな?」
「あ? バーニッシュがクリスマスを祝うのかって話だろ」
「浪漫がないとの点じゃないか?」
 あっ、話が噛み合ってない。別々のことをいってる二人に、そう感じた。


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