寝起き(ゲーラ)

 パシャパシャと使った食器を洗う。バーニッシュだった頃は、捨てるだけでよかったな。皿が足りなくても、作って燃やせば事足りるし。今思えば、文明の利器がなかっただけで、実は便利だったのかもしれない。(物の見方を変えれば違うって)なるらしいけど、私はよくわからない。今度、そういうのを読んだらわかるかな。ゲームとかして。
 そう思って食洗器に入れたら、ヒョイッと洗ったコップを奪われた。ゲーラだ。シャツの中に手を入れて、お腹を掻いている。ついでにすごい寝癖だ。欠伸も付いてきた。寝起きかな、シバシバと瞬きをしている。
「はよ」
「あぁ、うん。おはよう」
 プシャッとコップでプルタブを引く真似をするのは、突っ込んだ方がいいのだろうか? スカッ、スカッと、ゲーラの指が空中を掴む。それを不思議に思ったのか、閉じた目を薄く開いた。手元にはコップ。当たり前である。
「缶なら」
 向こうに、と冷蔵庫を指そうとしたら、ゲーラが近付いてくる。ヌッと自然に腰を屈めて、顔をこっちに近付けた。(洗ったのなら、でもコップに空けるのも)買っても缶は汚れているから、洗う必要がある。うだうだと考えていたら、ゲーラが近付いた。チュッと、唇に柔らかい感触が落ちる。ザラザラしている。唇の保湿、した方がいいんじゃないのかな。(リップクリーム)と考えている内に、両肩を掴まれる。そのまま、ちゅっちゅっと、唇を合わすだけのことをする。リップ音は、ゲーラからだろうか? それとも、少し吸われて離れる際に、私のからか。寝惚けているのに、ゲーラは目を閉じようとしない。自然と、私も閉じられない。
 瞬きをする。最後にちゅ、と長く唇を合わせてきた。あ、目を閉じてる。そのまま数秒、目を閉じて待っていたら、ゲーラが離れた。
 肩も解放される。コトンとカップが食洗器に戻った。
「間違えたわ」
「うん」
 食洗器から冷蔵庫へ戻る。そこから牛乳を取り出して、一気に飲み始めた。
「それ、みんなが使うものだけど」
 そう不平を出したら、グッと牛乳を見せられた。目の前で左右に振られる。液体の揺れる音がしない。触れば、空だった。
「出すまでもねぇだろ」
「それはそうだけど」
「歯ァ磨いてくるわ」
 空の牛乳を持って、ゲーラはキッチンを出た。ふあ、と大きく欠伸をしたかのように、顔が上を向いている。その背中を見てから、食洗器の蓋を閉じる。洗剤を入れて、スイッチを回して、乾燥機モードもオンに付けて、稼働開始。家事の一部を機械に任せてから、リビングに戻った。
(まちがい)
 ゲーラの一言を反芻する。キスをした相手を間違えたにしろ、目はしっかりと開いていた。目を開けたまま寝るなんて芸当、ゲーラにはできなかったはずだし。多分、相手は間違えてないんだろう。首を傾げる。なら、ビールだと思ってコップを手にしたことだろうか?
(わかんない)
 なにせ、相手は寝坊助の寝起きだし。寝起きの人間の思考は理解できない。ゴロンとソファに転がってから、欠伸をした。


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