寝起き(メイス)

 ふあっと欠伸をする。少し早めに起きたとしても、寝るのが遅かったせいで、少し眠い。パシパシと瞬きをする。目の奥が、ほんのりと沁みる。(『ドライアイ』ってヤツかなぁ)ふぁっとまた欠伸をする。けど大きく酸素を取り込んでも、まだ頭は眠いままだった。
 ガチャと扉の開く音が聞こえる。メイスだ。今回は、メイスが一番遅い。(多分、洗面所を取り合うのかな)もしくは、先にシャワーを浴びそう。うとうととしてたら、影が落ちた。
 室内なのに、急に暗くなる。雲が出たでもあるまいし。閉じた目を開ける。長い髪が左右に落ちていた。
(あー)
 原因に思い当たる。まぁ、いいや。無視して目を閉じ直したら、影が消えた。シャワーを浴びに行ったんだろう。ソファの肘掛けを枕にして、少し寝る。すると、お腹の方に少し体重が加わった。えっ、うそ。重い!? 慌てて目を開けて起き上がろうとすると、肩をソファに戻される。見上げると、メイスがいた。人のお腹の上に乗って、こちらを見下ろしている。
「ど、うして」
 男の人なんだから、わざわざ動きの要となる部分に乗らなくても。これじゃぁ、どうにも動けない。グッグッとメイスの足の間から、お腹を抜こうとする。けど、腰の部分をギュッと挟まれているから、抜けない。
「ちょ、メイス」
 顔を上げ直したら、メイスが近付いてきた。耳元に、メイスの髪がかかる。お腹の拘束も緩んで抜け出せそうだけど、頬に手を添えられて持ち上げられる。(あ、これ。キスするんだ)そう理解するよりも先に、メイスがキスをしてきた。静かに唇を合わせる。閉じた瞼を見れば、アイシャドウが落ちている。寝る前に落としたんだろうか? もぞもぞとメイスの体も動いて、体勢を変えてくる。お腹は開放されたけど、足の間に片足を挟まれた。もう片方の足が落ちたけど、それをソファに固定するように、下ろした片方の足で掬って持ち上げてくる。
(な、にこれ)
 状況を飲み込めないでいたら、緩くメイスの目が開いた。(あ、起きてる?)と思ったら、静から動へ変わる。要するに、動きがついた。人の手首を掴んで、噛み付いてくる。いや、実際に歯は立てられていないけど、なんかそれに近い。無理矢理唇を奪って、何度も歯列をなぞってくる。唇から舌を入れても、歯が閉じているのだから入らない。それでも満足するのか、舌で唇の内側を撫でてから、チュッと吸い付いてくる。離れたら、また吸い付いてくる。ギュッと目を閉じてたけど、段々目尻に力を入れられなくなってきた。ぼんやりと目が開く。薄く閉じたメイスの目と合った。
「んっ」
 手首の片方が外されて、グッと片足を持ち上げられる。まっ、待って待って。まさか!? 慌てて肩を掴んだら、惚けたメイスの目が起きた。すぐに状況を確認したのか、申し訳なさそうに目を逸らす。
「すまん」
「い、いや、驚いただけだから」
 実際は、それどころじゃなかったけど。
 メイスが解放してくれたのを見て、恐る恐る抜け出す。ソファの足に膝を引き寄せ、ちょこんと座る。メイスは向こうにドカッと座って「はぁ」と溜息を吐いていた。足を大きく広げて、ガシガシと頭を乱暴に片手で掻いている。俯いてるし、ちょうど目を隠している側だから、顔は見えない。
 それから頭を掻いた状態のままで止まる。数秒後「はぁ」と今度は静かに息を吐いた。どうやら、落ち着いたよう、だ?
「悪い。少し、頭を冷やしてくる」
「あ、うん」
 予想通り、シャワーを浴びていくようだ。スタスタとリビングを出るメイスの背中を見送る。それにしても、驚いた。鬱憤でも溜まっているのだろうか? なにかストレス、を解消できることがあればいいんだけど。
(とりあえず、自分のベッドで寝よう)
 もしかしたら、ゲーラにも同じことをされるかもしれないし。リビングを離れ、ベッドに戻った。


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