生ハム原木(植物)

 どうやら、どこかに『生ハム原木』という木があるのらしい。バーニッシュ時代の食糧難を経験した身としては、生唾ものだ。「実際に、そういう木があったらいいな」というボスの呟きの元、私たちは早速向かうことにした。とりあえず、ホームセンターだろう。あそこにはなんでもある、とメイスもいってたし。
「どの辺りを探せばいいんだろう」
「『原木』っていうからにはよ、やっぱあそこだろ。あそこ」
「あぁ、家庭菜園のコーナーか? 確かに、あの辺りだと植物に関することなら、なんでも揃っている」
「じゃあ、そこに?」
「あぁ」
「ついでに今夜の夕飯も買ってこうぜ」
「今日も缶詰?」
「鍋で温めるゴージャス付きだ」
「パンもあるぜ」
 なるほど、それだとゴージャスだ。食料品のコーナーに行って、目に付いたのをカートに入れる。ポイポイ、と。その横でメイスが計算をして、必要でないものをコーナーに戻した。即計算即リリースのやり方で。
「おい、それはまだいる方だろ!?」
「は? お前な、俺たちの財布を合わせて考えてみろ。余裕で足りないだろう」
「ぐっ」
「お菓子は? ダメ?」
「ボスへの手土産になら、いいだろう」
 こういうところ、甘々だ。ゲーラも「だな」と頷いてくるし。満場一致でカートの中に入れる。代わりに、ゲーラとメイスの選んだものが戻った。トコトコとメイスが逆方向に歩いて、こっちに戻ってくる。その手には、なにもない。
「これで予算内に入るはずだ」
「へいへい」
「よかったね」
「あぁ。これでしばらくは極貧の節約生活をしなくて済むぞ」
 それは勘弁被りたい。カートに食料品を入れて、ゴロゴロと植木鉢のコーナーに向かう。歩いても歩いても、魅力的なものばかりだ。
「今はそんな余裕、ないぞ」
「また今度にしとけ」
「ん」
 予約なんてできるかな。なんて思いながら、オモチャ売り場を立ち去る。ヌイグルミもほしいな。でも今度にしよう。家電用品のコーナーに差し掛かると、ゲーラとメイスが同時に顔を上げた。どうやら気になるのらしい。けど速度を変えない。簡単なバイクや車のパーツの売り場に差し掛かると、一気に足を止めた。
「ないんじゃなかったの?」
「うっ!」
「そ、それはそうだがなぁ。けど、ここにしかないものだって、あるんだぜ!?」
「量販店なのに?」
「ここには量産型のパーツしかない。諦めろ、ゲーラ」
「クッ! もしかしたら、あのパーツが置いてあったりするじゃねぇか!?」
「ないと思う」
「レアものは埃を被るか、売り切れか置いてないかのどちらかだ。諦めろ、ゲーラ」
「ちっきしょぉお!」
 叫ぶゲーラを引き摺り、植木鉢のコーナーに向かう。種や苗、植木鉢に植えた低木の幼木とかもある。三人で一周してみたけど、どこにも置いてなかった。おかしい。
「『原木』だから、木材のコーナーにあるの?」
「いや、そんなはずがないだろう。『原木』だぞ? キノコを培養する木材も、ここに売ってるはずだ」
「あん? アレのことか? 確かにありそうだな」
「あれも買うの?」
「買わん」
「でも、生ハム原木」
「それがないから、可笑しいというんだ」
「キノコを培養する木も売ってるのによ。可笑しい話だと思わねぇか!?」
「湿気のあるところで育てるんだって。バスルーム?」
「だから、買わんといっているだろう」
「そもそも、バスタブの中に置いとくって話か? やるなら森ン中だろ。森」
「そっかぁ」
「わざわざ森の中まで行く用事もないしな」
「森林日光浴?」
「いいな、それ。今度行こうぜ。予定空けとけよ」
「なら、今度見繕っておくか。ピクニックも良さそうだ」
「じゃぁ、今度ボスも」
「火消しの野郎がいなければ、いいんだがなぁ」
「あぁ、高確率で付いてくる可能性があるな」
 ボスが楽しそうだから、別にいいんだが。そうボヤいて、メイスがカートを引いた。少し前に歩かされる。行き過ぎたところを、ゲーラがカートを掴んで止めた。
「っつうか、ピクニックにしろ『生ハム原木』が必要になんだろ」
「早急に必要なのはそれだ! 俺たちの使命は、最早『生ハム原木』を探すことだといってもいい」
「なにそれ」
 初めて聞いたよ、そんなこと。そう思いながら、苗と種のところを眺めた。


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