乗り過ごした駅での中華まん

 お互い予定が重ならないけど、一つだけ重なった。「じゃぁ、この時間になったら集合な。遅れるんじゃないぞ」と伝えたリオの後ろで、ガロの賑やかな声が聞こえた。どうやら、一緒にくるのらしい。そのことをゲーラとメイスに伝えてたら、電車を乗り過ごしていた。どうしよう。このままだと間に合わなさそうだ。
「しゃぁねぇだろ。リオには後で謝っておくしかねぇ」
「どうせ火消しの兄ちゃんと一緒だ。暇潰しに困ることはないだろう」
「うーん、でも。今から戻ると、さらに時間がかかりそうだし」
「とりあえず、次の駅で降りて乗り換えようぜ」
「さらに待つ時間が増えるがな」
「うぅ。最大の誤算」
「しゃぁねぇだろ」
「とりあえず、降りた駅で考えるか」
 ゲーラとメイスが人の頭に寄りかかって、手元のデバイスを覗き込む。どんなに見つめても、発車時刻は速まらない。ブーッと音が鳴って、扉が開く。ゲーラとメイスが立ち上がって、私の肩や腰を叩いた。それに従って降りる。全員が降り終えると、電車のドアが閉まった。次の電車がくるまで、まだ時間がある。それまで、リオにどうやって説明すれば──と思ったら、メイスが連絡していた。
「あぁ、乗り過ごしてしまってな。悪いが、そっちで暫く楽しんでいてくれ」
「おっ。肉まん売ってるぜ。こんなところで、珍しいな」
「食べれるの? 出張中華まん?」
「それをいうなら、って。お前ら、もう買う気満々だな」
「え」
「あ? ワリィかよ」
「別に悪くはないさ。店主、俺にも貰えるか」
 もう代金を見せたからか、店長が「ヘイ!」と元気のいい声で答えた。最初から出来上がってるから、渡すのが早い。ホカホカの肉まんが手元に渡った。それを食べる。一口、また一口と。ふわふわのスポンジみたいな皮が美味しいし、溢れる肉汁も最高だ。きっと、別物のガーリックも使ってるんだろう。ゲーラとメイスを見れば、パクパクと速いスピードで食べていた。
「おっ。美味ぇ、美味ぇ」
「詫びにちょうどいいな。残りは焼売でいいだろう。店主、悪いが追加で頼む」
 追加注文が嬉しいんだろう。店長がまた元気な声で「ヘイ!」と答えた。ベージュ色の中華タワーが湯気を吹く。「これなに?」と尋ねたところ「セイロだ!」と店長から答えが返ってきた。なるほど、せいろ。
「せいろ」
「蒸し器だろう。パスタ鍋で代用すれば、ワンチャンいけるか」
「でもよ、本場を再現するのは無理じゃね? コイツで蒸したからこその、ジューシーさだろ」
「だろうな。まぁ、数はこのくらいあっても不足はないだろう」
「ねぇ。まだこないよ」
「あぁ、そうだろうな」
「時間通りに来るはずもねぇって」
 ほれ、お前も食べろ。ってゲーラがメニューを指差してくる。どうやら、くるまでの間に食べる気らしい。「俺はコイツを注文してみようかな」ってメイスがぼやいていた。
「飲み物は、ないなぁ」
「あとで奢ってやるから、なにか食えって。美味いぜ?」
「肉まんの種類も多いな」
「この世は広いなぁ」
「んだ、それ」ボヤいたらゲーラがすかさず返したので「ごめん、なんでもない」とだけ返した。変わった味のを選ぶ。それは作り置きしてないのか、店長がもう少しだけかかるといった。仕方ない、別のを選ぼう。
「じゃぁ、焼売で」
「食べきれるか?」
「あれだったら俺たちも食うぜ。ワリィが、フォークを三人分頼むぜ」
「いや、スティックじゃないか? この形状だと」
 ゲーラとメイスが話し込んでる間にも、店長は「ヘイ、お待ちぃ!」とだけ答えていた。


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