煙草を吸うメイス

「あっ」
 メイスが煙草を吸っている。珍しい。それをどうしたのだと聞けば「拾った」といわれた。
「ひろった」
「逃げ遅れた連中の落としたモンだ。持ち主が現れない限り、誰のものでもない」
「ふぅん」
「拾ったヤツが持ち主になるってだけの話だ」
「なるほど」
 よくゲームとかにあるという、宝箱の話と似ているんだろうか。理論や根拠はよくわからないけど、とにかくそういうことなんだろう。とりあえず近付いてみて、吸ってみる。なんか苦い匂いがした。
「吸ってみるか」
「うん」
 メイスから渡され、一本を口に咥える。舐めてみるけど紙の味しかしない。
(コレが苦い煙を出すなんて、変なの)
 そう思ってメイスを見たら、視線をこちらに合わせてきた。
 メイスの口を見る。同じ煙草を咥えてるのに、メイスのだけは先っぽが灰になっていた。その向こうで、赤い火がチロチロと奥へ進む。
 ボッとメイスの指から火が出る。その炎を私の咥える煙草に近付けて、火を付けた。
(ん?)
 特に変わらないから、メイスの炎に顔を近付けたら、ボッと火が大きくなった。勢いが強い。
「うわ!?」
 驚いて離そうとしたら、メイスの指が炎を潰した。本当に、私たちの体は便利だ。メイスの指先で潰れた火は、チロッと舌だけを見せて消えた。
 私の煙草は、メイスのものと同じになる。
 真新しく灰を作る先端を見つめても、なにも起こらない。
「吸ってみろ」
 いわれて口を開けて吸ってみても、空気だ。冷たい空気の感じがする。
「鼻で吸ってみろ」
 いわれて口を閉じて、鼻呼吸をする。瞬間、燃えた灰の向こうから煙が吸引された。苦くて、ピリッとした辛さが舌に広がる。
「うえっ!? いやっ!」
 咄嗟に捨てようと思ったら、メイスがその手を掴んだ。落ちる寸前でメイスが煙草をキャッチする。やっぱり、我々の体は便利だ。他人事のように思いながら、メイスのキャッチした煙草を見た。
 握り潰されたから、灰の部分が短くなっている。
「勿体ないだろ」
 そういって、自分の短くなった煙草を落として、長い私の煙草を吸い始めた。
「それをいうなら、中途半端のまま捨てるのが一番そうなのでは?」
「ギリギリまで吸ったら、煙草の味がわからなくなる」
 それに、といって落ちた煙草を踏み潰す。爪先が離れると、ひしゃげた煙草が見えた。火は、消えている。
「捨てるつもりなら吸った方がまだマシだろ。物を粗末にするな」
「……じゃぁ、腐った食べ物や毒を口にしたときは?」
「これは腐ってもないし、毒でもない」
 ふぅ、と深くメイスが息を吐く。するとモクモクと白っぽい灰色の煙が出た。
「お前にとっては毒がもしれんが、俺にとっては薬ってことだ」
「ふぅん」
 やはりそれの味はわからない。そもそも煙草なんて吸って、なにが楽しいものやら。
 そう思いながらも、煙草を吸うメイスの姿を眺めた。


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