ライダースジャケット

 発足した当初、先代たちは炎を纏いながらバイクを走らせて、道路を逆走していたのらしい。そして暴れて建物も破壊したとのことだ。そういうこともあってか、我々現代のマッドバーニッシュも、バイクに適した格好をしている。メイスは、まぁ、黒のヒールのある靴を履いている上上半身ノースリーブのみであるから疑問ではあるところだが……。私も例外なく、それに準じた服装をしている。しているはずなのだが──。
「もう少し動きやすい方がいい」
 正直、感想はそれである。衣裳部屋で色々と見繕ってくれた二人の目が丸くなる。『衣装部屋』といっても、都市にあるようなものではない。考えてもみろ、迫害されて隔離されている我々バーニッシュが、そのような余裕などない。せいぜい誰かの遺したお下がりを着たり、譲り受けたりなどして服を手に入れているのだ。新品の服を手にする機会など、そう滅多にない。なので、歴代のマッドバーニッシュたちの遺した服を、件の『衣装部屋』で探しているわけだが……。
「あ? ちょうどいいモンがあるだろ。短けりゃ丈を詰めろ」
「革のジャケットで出来るとでも?」
「他の奴らのお下がりも見たのか?」
「見た。それでもないの」
「なんでだよ」
「趣味が合わない」
「趣味の問題かよ」
 ゲーラがげんなりとした顔をする。
「問題なの!」
 そう力強く反論してからベッと舌を出すと、ゲーラの顔が益々渋くなった。顎杖を突いたまま、黙っている。
「そういえば」
 話を変えてメイスに尋ねる。
「一応、このまま走る予定はないよね? パーカーのままでもいけると思うんだけど」
「はぁ? んな暑っ苦しい服装してどーする。そもそも、燃えるぞ」
「確かに」
「ばっ、バーニッシュアーマーで燃やさないようにするようにするもん!」
「はぁ? んなのできるか」
「器用でないとできんぞ」
「で、できるし……」
「本当かぁ?」
「本当だもん!」
「まぁ、ともかく」
 またしてもゲーラと子どもの喧嘩を始める前に、メイスが止める。
「メカの方に乗るのは、ないな」
「なるほど」
「当たり前だろ! そもそも、俺らにはバーニッシュの誇りである炎があるんだ! 現物を調達するなど、非常事態の他にやるこたぁねぇ。基本、俺らの炎で事足りるものよ!」
「へぇ」
 自棄に饒舌に話すゲーラへ近寄る。
「もしかして、ボスの受け売り?」
「はぁ!?」
「まぁ、大方そういうところだ」
 聞けば、驚くゲーラよりメイスが答えた。なるほど、やはり。一人で頷きながら、自分の格好を見る。鏡はない。二人の目線による反応でしかわからないけど、自分的には問題ない。
 ジャケットを着る前と変わらない自分の格好を見る。
「やっぱり、このままでいいじゃない。動きやすいし」
「だっ、だからってな!? 燃えやすいんだぞ!?」
「確かに。俺たちの活動に集中するのならば、やはりそれに適した服が一番だ」
「だからって」
「そっ、そんなに嫌なら俺が見繕ってやる! 我慢しろ!!」
「いや」
 そう断ったら、ゲーラが撃沈した。
「お、俺の、選んだものが嫌だと……!?」
「いや、その前に……。さっきから露出の激しいものとか、やたら線の出る服ばかりを選ぶから……」
「やはりこれ一択しかないな」
「いや、それも嫌だから……汗を掻くと濡れちゃうじゃない」
「濡れんぞ」
「ベタっとなるの。ジャケット着ると」
「炎出しゃぁ、サッと乾くだろ。サッと」
「燃焼遠慮したいときは?」
「我慢」
「でもダメ」
「なんでだよ」
「女の子は、そういうのを気にするものなの!」
 といって、反論するゲーラの鼻を押した。鼻の先が潰れる。指先の感触もあって、思わず笑ってしまった。
 暫くして、衣装部屋に入ったメイスが戻ってきた。手にはメンズものが数点。それを私に投げてきた。
「わっと」
「機動性を求めて露出も抑えるなら、もうそれしかないだろ」
「でも、大きくない? ブカブカ」
「サイズが一番小さいものを選んだ。多分イケるだろ」
「ふぅん」
 その説得に乗り、衣装部屋に戻る。とはいえ、選んだ服がバラバラだ。メイスの着眼点を参考にして、他の服を選ぶ。そして完成したものに着替えて、二人の前に戻った。
「じゃーん! どうよ!!」
「変わってねぇな」
「変わったように見えん」
「変わったよ!」
 主に材質が!! そう叫んだけど、ボスが待ちくたびれているということでお開きになった。


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