テラコッタトブルー

 私たちの故郷でいうなら、味が単調でしょっぱい。でも、こっちだとヘルシーで健康的だという。なぜか? オニオンとサワークリームだけだからだ。バシバシ調味料を振りかけず、味がサッパリだと、一律健康だという認識なのらしい。なので、オニオンとサワークリーム味のポテトチップスがある。それを私が独占した。なぜかって? そんなの、なぜか癖になるからだ。
「なぁ、ななし。それ、俺にもくれよ」
「やだ。まだ残ってるでしょ」
「それも食いてぇんだよ」
 あ、と口を開けて待つゲーラに顔を背ける。無言の反対である。パリパリと食べたら「チェッ」と後ろから拗ねる声が聞こえた。でも、あげない。いつの間にか空っぽにされてしまうからだ。ヌッとメイスが横に座る。
「そんなに欲しいのなら、別のサワークリーム味を買うか? あぁ、オニオンも入ってた方がいいか」
「そういうのじゃなくて。なんか、やめられないの」
「あー。『やめられない止まらない』なんとかエビセン、ってヤツか」
「ゲーラ。なんだ、そのフレーズは」
「知らん。昔拾ったレコーダん中に入ってたんだよ」
「ふぅん」
 なんか、韻の踏み方を見るに私の故郷っぽそうだ。サワークリームとオニオンのチップスを、もう一枚食べる。極東の島国だと、バターとジャガイモの複雑なハーモニーを奏でるのに。この国だと単調に、タマネギの甘みと辛みを付けたサワークリームと一緒にチップスを食べてる味がする。雲泥の差だ。これが生まれた環境における食育の差かもしれない。そんなことを思いながら、尋ねる。
「サワークリームって、作れるの?」
「あ? あぁ、生クリームとヨーグルトがあればな、すぐだ」
「えっ」
 チーズじゃなかったの? 生クリームを食べていた事実に驚くと、横からヒョイッとゲーラの手が伸びる。
「あ!」
「ヘッ、もーらいっと」
「私の!!」
「お前のでもないが。俺ら三人で買ったようなものだろう。それと蓋をして常温で放置しておけば、完成だ」
「そうなの」
 チップスのボトルを奪おうとするゲーラと格闘をしながら、返す。変なところで律儀だな、メイス。そう思いながらトドメを刺そうとすると、チップスが向こうへ消えた。
「うわっ!?」
 ソファという不利な場所だから、体勢が崩れる。背凭れを掴む前に、ゲーラの胸の中へと倒れ込んでしまった。胸板が薄い。もしかして、さっきの衝撃で割れてしまったんじゃないだろうか? ペタペタと触っていると、グッと肩を引き寄せられる。
「で、作るのか? サワークリーム」
「オニオン付ける場合なら、ガーリックも必要だぜ?」
「なにそれ。サワークリームとオニオンを謳ってるのに? それとも自家製?」
「んなところだな」
「クッキーやパスタにしても美味しいぞ」
「サラダにもな。手早く済ませられるぜ」
「ふぅん」
 それぞれ、サワークリームに思い入れがあるのだろうか? そう思いながら、メイスの伸びる手を見た。チップスの入ったボトルが目に入る。あ、ゲーラめ。渡したな!?
「返して!」
「お前のじゃないといっただろ」
「俺たちにも寄越せってーの」
 いつのまにかゲーラに足を抱えられて、ソファに横向きにされていた。背凭れが見つからない。肘掛けに足を垂らされて、膝から上を抱え込まれる。一種のクッションの代わりだろうか? そう思ったら、肩を無理に引っ張られた。メイスの膝に寝かせられる。なぜ、私は横になっているのだろう?
「太る」
「テメェは、肉付けた方がいいんだよ」
「そうだぞ。痩せたままだと不安だ」
「体質的なものでも?」
「だな」
「まぁ、食った後だと悪いらしいが。ノーカンだ、肉を付けろ」
「なにそれ」
「腹に多少付いても気にしねぇよ」
「やめて」
 わしゃわしゃと触り出したゲーラの手を、パシッと止める。見せつけるように、目の前で食べちゃって。私も食べたいのに。ボトルに手を伸ばしたら、別の物が降ってきた。けど、食べたいのはチップスの方だ。
「チップス」
「我慢しろ」
「あとでサワークリームも作ってやる」
(そういうことじゃない)
 と思うものの、二人の手は止まらない。ジッと見つめると、赤色と青色の瞳が覗き込んだ。赤っぽいテラコッタに、澄んだアクアブルーだ。「綺麗だね」と瞳の色に感想を漏らすと「お前の方がだろう」と返された。
(意味、わかんない)
 そう思いながら、二人のじゃれ合いを受けた。


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