バーニングレスキューでのお勉強

「愛するって、なんだろう」
 そう呟いたら、ピシッと周りが凍った。あれ、変なこといったっけ? でも、普段から不思議に思うことを呟くような空気だったし、あれ? 混乱していると、ルチアが恐る恐る口を開く。
「いやいやいや、アンタねぇ。なにをどうしたら惚気っていう雰囲気になんのよ」
「え、のろ、い?」
「ちぃがぁう! の・ろ・け、よ!! 惚気!」
「えーっと、恋人のことを自慢げに話すことかな?」
「こい、びと?」
「無駄だろう。どうせ、恋人という概念も知らないぞ、コイツ」
 副隊長、ひどい。まぁ、それに変わりはないと思うけど。もぐもぐとドーナツを食べる。リオやゲーラやメイスは、ガロやバリスたちと一緒に訓練へ出かけている。私はといえば、ルチアとアイナとで勉強会をしていた。副隊長は教師代わりみたいなものである。とはいえ、私に対する補習が最もだけど。
(倫理性の問題)
「そういや気になったんだけどよ。アンタとアイツらってどういう関係なんよ。ほら、あの元幹部」
「あー、ゲーラとメイスね。あの二人、よく一緒にいるもんね」
「流石ニコイチ、もとい双肩と呼ばれただけあるな。あとは禁煙だけを願うのみだが」
「ウチ、消防だからねぇ。署内で火を付けられたら堪らんってぇの」
「ハハッ、火を付けるのは煙草だけどね」
「ん? 場所によって、火を付ける場所が違うの?」
「いやいや、そうじゃなくてねぇ」
「やはり、ななしの場合はそこが急務だな。ちゃんと仕事はできるんだがなぁ」
「多分、アレじゃない? 会話の中で把握する的な」
「まぁ、同郷でも英語を使えない人間はいるからなぁ。母国語英語の癖に」
「複数形が単純じゃねぇんだよ。やっぱななしの場合は、他のヤツとも会話することでクリアできるっしょ」
「それはそうだがな。問題は、それを現場では持ち込めないということだ」
「まぁ、場所的には手っ取り早いもんね」
「で、オフにさせようとしてもあの二人が邪魔をする、と」
「そういうこと。だから今の内に慣れさせた方が良いと思うんだよねぇ。っと」
 ガタっと椅子が引かれる。空いた席に、副隊長が座った。
「とりあえず、採点をしようか。今、どこまで進んだ?」
「ここ」
「そうか。えーっと、アイナ」
「はいはい?」
「ちゃんとヒントを出して、これなのか?」
 あ、副隊長の眼鏡が曇った。逆光? それを指されたアイナは、苦い顔をしていた。
「わ、私だって頑張った方だと思うよ?」
「たーだ、対象を置き換えりゃぁ、ちゃんと答えられるんだよねぇ。認識の問題? っていうか」
「そうか。まぁ、根深いだろうとは思ってはいたけどさ。はぁ、なんだって」
 隊長はこんなのを許したんだ、と。副隊長がいった。もしかして、私だけまだ試験合格できなかったってことなんだろうか?
「えっと」
「あ、ななしは悪くないからね!? ちゃんと、入隊試験にも合格できたんだし!」
「問題はマスコミの対応だよ。ほら、アンタら元マッドバーニッシュじゃん? それらがなんでウチにいるんだよっていう声も煩くてねぇ」
「なるほど」
「それで一歩間違えた対応をすると、たちまち火の海になるってワケさ。ガロの野郎も、火消しの癖に火を付けるような真似もしやがるからねぇ」
「大変だ」
「ついでに予算も削減されちゃう可能性もあるからね。それで」
「人命を救う命なのに?」
「上が変われば下の人間の扱いも、たちまち変わるっていうわけさ。じゃぁ、ななし。ところで」
 トントン、と副隊長の指が画面を叩く。解答用紙にはペケマークが打ってあった。
「これを元バーニッシュの仲間だとしたら、どうする?」
「助ける。最後まで助ける」
「ありゃ、やっとまともな答えが出たよ!」
「ようやくトドメを刺すという以外の言葉が出た」
「お疲れ様」
 トン、と音がする。副隊長が背凭れに凭れかかっていた。アイナとルチアを見れば、とても疲れた顔をしている。そんなに疲れたのだろうか? 少し申し訳なく思う。
「その、なにか淹れようか?」
「あー、いい。いい、んな気遣いはいらねぇから」
「ハハッ、気持ちだけ受け取っておくよ」
「さて、ななし。話は変わるが、これと同じように、人命救助をする対象の人間を元バーニッシュの人間と同じように見れるか? この意識だけで、現場の動きが違うんだ」
 それだけで救える命も違う。との言葉に身が締まる。そうか、忘れていた。ただ火災や災害の現場から人を救うだけの話じゃなかった。
「難しい話だとは思うがな。努力は、できるか?」
「まぁ、できるかも。しれない」
「そうか、良し」
 そういって、副隊長がワシワシと頭を撫でてきた。「あーあ、レディの頭を鷲掴みにしちゃってさ、オメェ」「せっかくセットした髪なのに!」とルチアとアイナがそれぞれいうけど、副隊長は「ごめん、ごめん」というだけだ。
 撫でられた髪を直す。ところどころ手櫛で整えてたら、「あ」と固まる声が聞こえた。
 三人の見ている方を見る。いつのまにか、ゲーラとメイスが訓練を終えて戻ってきていた。
「あっ。次、こっち?」
「おい、勘違いするなよ? なにもそういうわけで」
 副隊長が言い終わらない内に、ガシッと腕を掴まれた。ゲーラは肩で、メイスが腕。そのままグイッと肩が後ろへ引っ張られる。
「おー、こわっ」
「別にとる気もないのに。いくらレミーがプレイボーイだからって、そんな趣味はないよ」
「おいおい。俺の風評被害はやめてくれ」
「落ち着け、お前たち。ウチの者がすまない」
「いやいや、お前んトコっていわれたら、まんま俺たちってことじゃねぇか」
「はぁ? アンタ、読解力って言葉、知ってる?」
「知ってらぁ!!」
「リオはもう、バーニングレスキューの一員だからな」
「待って。意味がわからない」
「わからなくていーんだよ」
「リオもバーニッシュだった頃の癖が抜け切らないだけだ」
「それはお前たちだって同じことだろう? ところで、ななし。お前はなにをしていたんだ?」
「勉強」
「ほーう、勉強ねぇ」
「道徳のお勉強か」
「うん。リンゴ一個しかないのに、どちらにあげようかって」
「ふぅん。リンゴ食えるくらいなら、アップルパイを食いてぇな。もう昔みたいに逃げ回らなくていいしよ」
「あぁ。ベーカリーのパイも、チェーン店のパイも最高に美味いからな」
「そうか? 僕はケーキ屋のパイも好きだな。なにせパイ生地が美味しい。今度、お前たちも食べてみたらどうだ?」
「そうする」
「そこまでオススメするってんなら、食べてみるかね」
「で、オススメの場所は?」
「確か、前ガロとアイナと行った場所で」
「おいおい。勝手に話を進めるな。まだななしの勉強が終わったわけじゃ」
「いいじゃないか。たまには息抜きも必要だろう?」
「隊長。って、なに出前を取ろうとしてるんですか」
「アップルパイ。食うだろう?」
 なぜか隊長の奢りで、アップルパイを食べることになった。


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