うるう年

「今年はうるう年だな」
「え?」
「ほら、二月なのに一日多いだろう?」
「だから、まだ三月のイベントが始まってなかったのかよ」
 期待して損したぜ、とゲーラがいう。けれども、メイスのいうことがわからない。えっ、今年はうるう年? けど、なんで"leap"を使うのだ? どうして『跳ぶ』って単語を、"year"の前に、えっ?
「えっ、うるう年って? "LEAP"?」
「あぁ、知らないのか?」
「日付が一日ズレるだろ? それで跳ぶんだよ」
「なにが?」
「ウェンズデイ」
 曜日を口にしたゲーラに、キョトンとしてしまう。ウェンズデイ、"Wednesday"、水曜日だ。(なぜ水曜日)そう口にしようとしたら「どうして水曜日なんだ」とメイスが口にした。
「ん? ほら、わかりやすいじゃねぇか。真ん中だとよ」
「それはそうだが」
「なんで水曜日なの?」
 聞き返すと、ゲーラがグッと近寄る。私の肩から腕を下げて、カレンダーを捲った。
「次の年の、ねぇな」
「当たり前だろう」
「ま、うるう年だと来年が跳ぶって話だ。ほら、去年の今頃だと、火曜日じゃねぇか」
「うん」
(そうだったか?)
「で、今年がうるう年だと来年が金曜日になっちまうってことだ」
 トン、とカレンダーの一コマを飛ばす。「今年が水曜日だから?」と返すと「おう」と返ってきた。ゲーラの視線は、まだカレンダーにある。
「木曜日が跳んじまうんだ」
「だから、"LEAP"とあるわけだ」
 所説はあるがな、とメイスが付け加える。「まるでウサギのように跳ねるからな」と、曜日をなぞった。
「ウサギは月見て跳ねる、という歌があるだろう? それと同じだ」
「同じなんだ」
「下手な嘘ついてんじゃねぇぞ。メイス。まぁ、イメージはわかるけどよ」
「わかるんだ」
「おう。ウサギも同じくらい跳ぶからな。ピョンって」
 またゲーラの指が、カレンダーのコマの上で跳ぶ。
「"rabit year"じゃないんだ。それなのに」
「ハハッ、それだと『ウサギ年』になってしまうだろう」
「"LEAP"だぜ。"LEAP"。"LOOP"じゃねぇからな」
「うん」
 知ってる、とはいわずに頷く。また一つ語彙が増えた。そう思いながら、動く二人の指を見る。どうやら、今後の予定を立てているようだ。捲られたカレンダーが、ゲーラの手首にかかる。
「この日はどうよ?」
「いいな、互いに予定は入ってないし。ななしはどうだ?」
「ん?」
「この日だよ、この日。予定、入ってんのか?」
「え、全然」
 首を横に振ると、「よし」とゲーラが頷いた。そのあとにカレンダーが落ちる。ゲーラがペンを持ち出し、カレンダーになにかを書き込んだ。"prep"、なんだこれ。
「ぷれぷ?」
「"Preparation"、準備の略語だな」
「否定的な方じゃないぜ。この時間に用意するかね」
 そんな会話をして、なんか作戦を立てていた。


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