キスの嵐

 二人はなにも変わってないけど、なんか小さなところは変わったような気がする。入れ替わったというか。ゲーラは理由を付けてキスをしたがるし、メイスは同意を得てからしたがる。前までは、理由も付けずキスをしたのに、理由を付けてキスをしてたのに。
(というか)
 そもそもバーニッシュじゃなくなったのだから、キスをする必要もない。バーニッシュの生命を分け与える必要もないのだ。『火』か。そんなことを考えながら紅茶を淹れていると、肩に重みがくる。ゲーラだ。
「なにしてんだ」
「お茶、淹れてる」
 一言だけでは足りないと思い、付け足す。そう返せば「ふぅん」とゲーラが返した。ティーパックを皿に出す。数回揺らしただけで、お茶の味は出た。けれども二回目だからか、お茶の渋味と酸味が強く出ている。
「美味いか? それ」
「一回目は」
 そう返して含んだ一口を飲み終えると、ゲーラの顔が迫った。あ、これは同意も理由付けも得てない。ただゲーラがしたいだけだ。フッと触れて、唇が重なる。それから何度も重ね合わせて、ゆっくりと舌を入れた。
「ん、ふぁっ」
 歯をなぞられる。舌でそれだけのことをすると、また唇を味わうことに戻った。上唇を吸われる。下唇も食まれて、ちゅぱっと音がした。
「だな。なんか苦ぇ」
「で、しょう? だから二回目は淹れるなって」
「おう」
 最後まで言い終わることもなく、ゲーラがキスをしてくる。本当、キスしか考えてない顔だ。肩を掴まれ、壁際に追いやられる。何度も唇を味わわされるうちに腰が抜けるし、グッと腰を押し付けられる。太腿に触れた硬さに、ビクッと体が跳ねた。
「ふぅ」
 と息を漏らして、ゲーラが離れる。なんか唾が繋がってるのを、ペロリと舐めて落とした。もう一度キスをする。チュッとリップ音がやけに耳に残った。
「その顔」
 熱に浮かれたゲーラが、私の顔を触る。グッと頬を掴んだ。
「どうにかしとけよ」
 というが、それはゲーラの方だろう。太腿に当たった硬いのが離れた。前屈みのゲーラがリビングへ出る。キッチンに残されたのは、私一人だけだ。とりあえず、二回目の紅茶を飲む。やはり、苦味と酸味が強い。もう一口、二口と飲み続けていたら、気分が落ち着いてきた。
(よし)
 頬の熱も戻ったことだし、もう大丈夫だろう。カップを持って、リビングへ戻る。ゲーラはいない。代わりにメイスがソファで寛いでいた。
(ラッキー。ようやく自由に座れる)
 そう思って、いつもゲーラがいる席に座る。うん、やはり肘掛けの傍でのびのびと寛げるのは、精神的に良い。ダランと凭れ掛かっていたら、メイスの視線が刺さる。ジトっとした目付きだ。むくっと起き上がり、メイスを見る。
「なに?」
「いや、零れないか? それ」
 指差したものを見れば、カップ。私のカップだ。まぁ、確かに零れそうではあるけど。コトンとテーブルに置く。寛ぎ直そうとしたら、グッと腕を引っ張られた。
「わっ」
 メイスの膝に手を着ける。見上げればメイスの顔があって、近付いていた。クシャリと髪を撫でられて、無理に顔を引き寄せられる。
「ん、ふ!?」
 強引なやり方だ。メイスの肩を押すが、ビクリともしない。口を付けただけではなく、舌も挿し込んでくる。息が苦しい。咄嗟にメイスの膝に手をつく。すると肩から腰へと引き寄せられた。キスをされたまま、膝の上に座らされた。グッと直接、布越しに押し付けられる。その硬さに、ビクッと体が跳ねた。
「や、だ」
 唇が離れた一瞬の隙に、肩を押す。ゲーラではない。メイスだ。はぁはぁと息を整えていると、グッと腰を突き上げられた。ギュッと肩を掴む。濃いアイシャドウが見えた。「他の男のこと、考えただろう」核心を突くそれに、ドキッとする。
「えっと、げ」
「あぁ、聞こえていたからな」
「えっ」
 嘘、と聞く前に口を塞がれた。押し付けるように、何度も唇が重なる。じゅるっと吸われてるせいもあって、唇が唾液塗れになった。あ、耳にかけた。あ、ヤバい。段々とヒートアップしてくる気配を感じて、メイスの体を押す。けれどもメイスも男なのか、やめてくれない。
「や、だぁ」
 苦し紛れに抵抗をすると、チュッとキスをして止まる。よかった、落ち着いてくれたようだ。ほっと胸を撫で下ろしていると、メイスが近付く。額にキスだけを落とすと、ソファに戻してくれた。
「すまん。少し、席を外す」
(『すまん』って)
 いったい、なにに謝ってるんだろうか? そう疑問に思う暇もなく、メイスがリビングを出た。一人、残される。ゲーラに続いて、メイスまで。(なんで、そうもしたいんだろう)それならそうと、自分たちですればいいのに。あれ、もしかして自分たちでする趣味とかはないとか?
(なら、なんで私を)
 そう思ったら、ボスが部屋から飛び出して来た。手に、ゲーム機を持っている。
「ななし! 加勢しろ!! 二人でガロのヤツをやっつけるぞ!」
「あ、うん」
 いいよ、と告げてからリビングから離れた。オンライン対戦なのらしい。画面では、ガロと思われる人物がチャットでボスを急かしていた。
「操作方法はわかるな? よし。ガロのヤツをぶちのめすぞ」
「あ、うん」
(やけに殺意に満ちている)
 そこまでコテンパンにやられたのだろうか? ガロとその相手を合わせて、ボスと一緒に対戦ゲームをした。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -