寝れないことにゲーラが気付く

 怖い夢を見た。今まで見たものと違い、漠然とした不安が襲う。昔の記憶からじゃなくて、新しいのが出来そうな予感。その嫌な夢見心地をもう一度味わうのが嫌で、寝られない。
 リビングに向かう。けど当然のように誰もいない。それもそうだ、もう午前三時の真夜中なのだから。多分。
(どうしよう)
 誰かに添い寝をしてもらうか? それとも誰かが起きるまで待ってみるか? それとも寝心地を変えてみるか? この三つの中で一番実現性が高いのは、三つ目の方だ。
 いそいそと自室に戻り、毛布を運ぶ。ソファに座って、毛布に包まった。ストーブは、燃料節約のために使いたくない。
(そういえば)
 よくソファでゲーラやメイスとテレビを見たりゲームをしたりしたことを思い出す。それで肌寒さを覚えてたら、どこかで物音が聞こえた。布ズレをして、足音がする。
(誰か、起きたのかな)
 毛布を引き寄せて丸まってたら、ゲーラの部屋からゲーラが出てきた。
 なんか、水でも飲みにきたんだろう。寝惚けて頭を掻いてたら、私に気付いて「あ」と声を上げた。目を丸くしている。
「お前、んなところでなにしてんだよ」
「怖い夢を見て、ちょっと」
「はぁ? 怖い夢だぁ?」
 暗闇だからわからないけど、多分素っ頓狂な声を出した顔をしているんだろう。のそりのそりと足音が近付いて、ゲーラの手が私の頭を叩いた。ポスン、とからゆるゆると撫でてくる。
「悪夢か?」
 そう尋ねてくるので、とりあえず首だけを動かす。うん、とだけ頷いておいた。そこから私の頭を軸にして、隣に座る。毛布越しに、ゲーラの体が私の体を掠った。
「それで寝れねぇとか、ガキかよ」
「子どもじゃないよ。いい年した大人だもん」
「大人だったら、こんなところで拗ねてねぇだろ」
「拗ねてないよ」
「拗ねてる」
「拗ねてないってば」
 そう押し問答を続けたら「拗ねてんだろ」ってゲーラがいって、毛布を片方剥がした。冷たい空気が体を撫でて、ゲーラが潜り込んでくる。
「寒い」
「毛布で足りねぇところがな」
 そう返して、ゲーラが引き寄せてくる。ソファの上で足を広げてるからか、すっぽりと腕の中に収まった。頭も抱き寄せられて、胸に押し付けられる。トクン、トクンとゲーラの心臓の音が聞こえた。
「なんで抱き締めるの」
「嫌な夢見たあとにゃぁ、こっちの方が効果があるって聞いたぞ」
「ふぅん」
「このまましてりゃぁ、寝れんだろ」
「そうかな」
「寝付くまで待ってやるよ」
 そういいながら、人の頭を撫でてくる。なんか、赤ちゃんの頃に戻ってしまうような、優しい手付きだな。そう思いながら、その好意に甘える。
「変なこと、しないでね」
「おーう……」
 最後の躊躇いのある返事は無視して、目を閉じた。人の体温と心音と撫でられる手付きで、少しは寝入りが良くなる。けど、それだけだ。仮眠と同じように、浅い眠りになる。
 パチッと、重く目を開ける。
「眠れねぇのかよ」
「うーん……。もう少し、寄っていい?」
 そう聞けば、ゲーラが私ごとゴロンと寝転がった。ゲーラが下になる。毛布が体に覆いかぶさる。あ、これで眠れそう。まるで猫みたいに体を丸めて、ゲーラの上で寝たのであった。


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