ゲーラはリップクリームを返してくれない

 キュッと下唇を上唇の下に潜らせて、前歯で軽く留める。軽く舌の先で舐めれば、ちょっとしたカサツキを感じた。
(塗らなきゃ)
 そう思ってリップクリームを取り出す。キャップを外して下のネジを回そうとすると、ゲーラが近付いてきた。人の顎を掬って上げさせて、唇をくっ付けてくる。ゲーラの唇もかさついている。軽く触れただけで終わると、小さく唇を舐めてきた。
「それ」
 口を開くと、ゲーラが舐めるのをやめる。
「舐めたら、悪化すると聞いた」
 メイスに。そう告げると「ふーん」とゲーラは答えた。続いて私の手に視線を落とし、リップクリームを抓む。持ち直し、ねじを回しながら中身を捻り出す。
「出しすぎ」
 そのままじゃ折れちゃいそう。長いリップクリームの芯に「ふぅん」とゲーラは返す。それから、リップクリームの芯を戻そうとしない。
 ゲーラの手を包み、ねじの親指を親指で押し下げる。意外と抵抗が少ない。そのままクルクルと短くする。折れにくくなる短さにしたら、リップクリームを塗った。
 親指の抵抗は少ないけど、リップクリームを離してくれない。なので顔を近付かせて、リップクリームを塗った。片手で塗るのと違って、ゲーラの手に固定されているものだから、自分の顔を動かして塗るしかない。だから、少し不器用になってしまった。
 唇の輪郭から食み出たリップを、指で拭う。
(どうしよう)
 拭いてから塗り直した方がいいかな。そう思ったら、またゲーラが人の顎を掬った。唇を寄せる。顎にあった手は頭に回って、ちょうどその溝に手首を潜り込ませた。ツボを押してるんだろうか。そう思ったら、そのまま後頭部を支えられた。でも、唇を寄せただけだ。唇に付けたリップを、ゲーラの唇に移される。離れる。ゲーラの唇が、さっきより少しテカってるように思えた。
「ちゃんと塗った方がいいよ」
「そうかぃ」
 とゲーラはそう人のアドバイスを聞かないまま、また唇を触る。ふにふにと。人差し指と親指で唇の周りを揉んだり触ったりもした。
「リップクリームを返して」そう手を伸ばそうとしたら、またゲーラがキスをしたのでお開きになってしまった。


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