食欲を利用してメイスが頷かせる

 ケアが足りないせいか、唇から血が少し出ていた。リップクリームを塗ったのに。滲む血の味を舐めていたら、メイスがリップクリームを出してきた。キュッとリップを出すと、顎を掬ってくる。そのまま、唇へ塗ってきた。至近距離である。ジッと私の唇を見ながら、リップを動かしていた。スッとした清涼感が唇にくる。ついでにミントの香りも微かにした。
 塗り終えると、メイスが離れる。リップクリームをポケットに戻すと、スッと腰を伸ばした。
「持ってたんだ」
 持ち歩いていたの? とはいえず。リップクリームのあるポケットを指差して聞く。
「まぁな。この時期は乾燥をしやすい」
 エチケットみたいなもんだ、とメイスはいう。メイスの顔が正面に戻ったのを見て、自分の唇を触る。ミントの爽快感とは裏腹に、唇は柔らかくなっていた。
「ハチミツの味、がよかったな」
「俺が使うんだぞ。わざわざ買えるか」
「そっか。でも、詳しいね」
 そう零すと、ピタッとメイスの口が閉じた。なにも下心ないのに。変な勘繰りをするメイスに、一言付け加える。
「唇の保湿とか。前、なんか唇に着けてラップやってたし」
「あれは。その、最先端というヤツだ」
「さいせんたん」
「そう、最先端だ」
 そう説き伏せるメイスに、頷くふりをする。とりあえず深追いはしてほしくなさそうだ。それくらいのことは分かるので、黙る。
「そっか」
「そうだ」
「やっぱり、ハチミツも使ったの?」
「わかったぞ。今、ハチミツをたっぷりとかけたケーキかなにかを食いたいんだろう。違うか?」
「確かにハチミツを食べるなら、それが手っ取り早いけど。でも、それとなにが」
「お前がそう追及してくるってことは、大抵なにかを食べたい合図だ」
 食べるか? と聞くメイスに「うん」と答える。まさか、食欲と結び付けられるとは。まぁ、確かにハチミツのたっぷりかかった食べ物を、なにか食べたいとは思ったけど。
 手を引いて歩かせるメイスにいう。
「ねぇ、メイス」
「なんだ」
「なんか、ハニーシロップとかいう、ハチミツの亜種食べたい。カナダでよく取れるという」
「メープルシロップだな。意外とよく食べてるぞ」
「え、嘘」
「マジだ」
 どうやら本当なのらしい。「じゃぁ、メープルシロップをかけるところに行くか」と聞くメイスに、うんとしか頷くなかったのであった。


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