KOTATSUを買う/ストーブを買う

 外の冷たさが喉や肺を刺すようになってきた。段々と冬が近付いてきたなぁ、と思いながらも、炬燵がほしくなってきた。けれどもここは、プロメポリス。メトロポリスではない。極東の島国の文化といえば、ガロ青年がはしゃぎ倒す程度の浸透率だし、ウィンドウショッピングなどで炬燵というものが、見れるわけでもない。
 一家に一台炬燵。けれどもプロメポリスなどの地域では一家に一台ストーブだ。リサイクルショップで、ストーブを探す。リオはあれがよくて、ガロはあれ。メイスはそれがよくて、私は? と意見を聞かれた。正直、炬燵がほしい。マフラーに顔を埋める。
「コタツ」
 そう零したら、三人にビックリしたような目で見られた。
「こた、つ?」
「なんだそりゃ」
「聞いたこともないな」
「昔、小さい頃、入ったことがある。冬になると、押し入れから出してきて」
「押し入れ? あぁ、なんだ。ななしの故郷の話か。お前の国だと、KOTATSUとやらが存在するんだな?」
「うん。テーブルに布団敷いて、ヒーターもあって。その中に足を入れるの」
「あ? テーブルに布団を敷くたぁ、変わってんなぁ」
「聞いたことがあるぞ。極東の島国に伝わる魔の道具らしい。なにやら、一度入ったら二度と出られないそうだ」
「こわっ! んだよ、それ。こえぇな」
「でも冬には快適だよ。炬燵でぬくぬくできるんだから」
「あぁ、僕も聞いたことあるぞ。確か『KOTATSUでミカン』とやらだろう? けど、ミカンなんてものないしな」
「ここだと、オレンジだもんね」
「は? オレンジって、夏に食う食い物だろ」
「土地が違えば気候も違う。気候も違えば採れる食料も違う、ということだろう」
「そういうこと。寒い」
「だからいつもより大人しいのか」
「の、ようだな。俺も初めて見たぜ」
「バーニッシュだった頃は、プロメアの炎でどうにか体温を上げていたからな」
「いくら鍛えたとはいえ、寒いものは寒いからな。ななし、ちゃんと着込んできたのか?」
「ん。厚手のセーターにマフラーと手袋と、コートとブーツも。防寒対策もバッチシ」
「そうか。だったら、もっと肉を食べて筋肉と脂肪も付けないとな」
「うん」
「肉ばっか食うなよ。三食キチンと、栄養のあるもんを採れよ」
「それ、ゲーラがいう?」
「ビタミンミネラルも大事だ。ちゃんと果物も取れよ」
「それ、メイスがいう?」
 不健康不摂生な生活をする二人が、それいう? そう思いながらも、モデルで展示したストーブに近付く。ボボボとモデルで燃えているので温かい。ボーッと、それに手を突き出す。
「あたたかい」
「へぇ、良いデザインだな。何時間くらい持つんだ? それ」
「ふむ」
 チラッとメイスが値段を覗き込むと、ゲッと顔を青ざめる。
「前買ったものよりも高いな。その分性能が釣り上がっているが」
「あん? 何々? ほう、コイツは高ぇな」
 同じく覗き込んだゲーラも、顔を歪めてる。青ざめてもいる。
「だが、その分燃料の持ちがいいということだ」
「あたたかーい」
「コストパフォーマンスという、長い目で見てみよう」
「だが、今の手持ちじゃ買えないぞ」
「ただでさえ、暖房代で光熱費がヤベェんだぜ? もう少し安い方がいいだろ」
「確かに、そうだが。しかし」
「あ。あのデザイン良さそう」
「だ、そうだ。インテリアの統一性で考えるか?」
「だとしたら、前買ったのと同じシリーズで合わせるべきだ。色違いの」
「んなら、さっき中古品で売ってたぜ。まー、燃費の持ちは、コイツと比べたら可哀想だがよ」
「そうか。ふむ」
「寒い」
「お前、そればっかだな」
「それしかいえないのか」
「なんで二人から畳みかけるようにいわれなきゃいけないの? 寒いったら、寒い」
「もしかしたら、風邪を引いたんじゃないのか? 店内も温かいし」
「俺らが着込んでる分は、ありそうだけどな」
「ぶっちゃけると、ななしほど寒ぃとは感じねぇな」
「ゲーラ。とどのつまり、お前も寒いということなんだな?」
「コイツほど極端じゃねぇよ。まっ、寒ぃといったら、気持ち肌寒いくらいだが」
「そうか」
「焼き芋食べたい」
「最早連想ゲームになってるな」
「だな。コイツの部屋に置くか?」
「ゲーラ、メイス。それだとななしが部屋から出てこなくなると思う」
「あー、だな」
「確かにそうだ」
「もう炬燵にしようよ、炬燵。それでリビングに全員集まるんだしさ」
 ね? ってストーブに温まりながら聞くと「そんなのどこにもなかったぞ」と心優しいリオが現実を突きつけた。チクショウ。わかってたよ、そんなこと。
「はぁ。炬燵、入りたい」
「KOTATSUねぇ」
「一層のこと、作るか?」
「いや、まずは手本を見てからだろう。そうでないと、確実にそうでないものが出来上がる」
「だな。下手に失敗して学習する暇も金など、ないしな」
「はぁ、貧乏暇なしってヤツかねぇ。おら、ななし。行くぞ」
「四人も働いてるのにね。なんでだろう」
 そう漏らすと、三人は一斉に顔を逸らした。バイクのパーツに改良部品、趣味娯楽とエトセトラ。多分、控えめにしようとしてもできない欲望が、ここにある。誰だって、趣味娯楽に注ぎ込む金額はセーブできない。
 バイク改造魔のリオと、バンドのアンプとか機材に注ぎ込むメイス、それと色々と漫画や雑誌も買い込むゲーラと。三人とも、ほしいものに目が行くと、ついつい買ってしまう気がある。私だってそうだ。人のこといえない。これもきっと、バーニッシュ時代節約とか物資調達とかに徹した結果の反動なんだろう。
 そう思いながら、四台分の小さなヒーターを買って店を出たのであった。


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