出張先で御真祖様と再開する

 今日も遠方の地まで呼び出された。(もう、フクマさんの異次元移動を使った方が早いような気が、いやSAN値がゴリゴリと削られるからやめておこう)そもそも、どうしてこうも私を呼び出すのか。お金をたくさん貰えるからいいけど。まったく、人気者ってのはつらいね! 解放されたい。
 そう思いながら、適当な屋根に腰かけて、綺麗な満月を眺める。そう、今日はとても月が綺麗な日だ。そして私をわざわざここまで呼び寄せた傍迷惑な吸血鬼は、教会の中で懺悔を強制されまくっている。きっと、今頃居心地の悪さをMAXに感じていることだろう。(早く帰りたい)けれど帰りの便がない。朝にならないと乗れない──そう思いながら、チュロスを食べる。すると、見知った顔が上から覗き込んできた。
「チャオ」
 私は座っているので、自ずと上から腰を屈めて覗き込む形となる。「こんばんは」つまり、背後に立たれているに等しい。けれど気にせず、チュロスをもう一口食べる。
「御真祖様。どうしてここに?」
「それ、美味しそうだよね。どこの?」
「映画を観たくて恋しくて、下の売店で買ったよ」
「もうないじゃん」
「閉店してるよ。人も寝静まる深夜だから」
「へぇ」
 つまんないの、と話半分に言いたげな目だ。(そういえば)御真祖様と会うのも、あの草野球ぶりになる。確か、一族が全員強制参加されていたような。それで、砂が変に叫んでたりアルマジロが泣いてる姿もあったりと(ん?)デジャブ。デジャブを感じた。(そんな、まさかな)チュロスをもう一口食べる。飽きたのか、御真祖様が隣に座ってきた。
「めっちゃ疲れてる顔をしているね」
「御真祖様は相変わらず、はちゃめちゃに元気だね」
「当たり前でしょ」
「そうだね」
 実質、御真祖様は今まで出会った吸血鬼の誰よりも強いだろう。けれど狩るつもりはない。そんなの無意味だからだ。「もしかして、ここの吸血鬼が捕まっちゃった感じ?」「まぁ。商店街や人に迷惑をかけてたから。お灸を据えるような感じで」「へぇ、ちょっと歯軋りしている顔でも覗いてみようかな」「御真祖様が出ると、余計に話が拗れるからやめてよ」「でも、面白そうじゃん?」「向こうのとばっちりが私に来るの」「それなら仕方ないね。別のにしよう」「別の」御真祖様の代案は、少し信用ならない。ジト目で見るが、御真祖様はなにもいわない。どこ吹く風だ。「ところで、私も買ったんだよね」「へぇ」「大福」「なんで?」なんでそこで大福が出る? 思わず頭に大量のクエスチョンマークが浮かんだ。「でも、脂っこいんだよねぇ」そういいつつ、御真祖様は、その大福を食べる。というか、それ大福じゃなくて。
「月餅、じゃ? 御真祖様。それ、どこで買ったの?」
「ん? 中国。ほら、ちょうど日本の近くにある国」
「あぁ、うん。じゃあ、その大福。多分揚げてあるよ。多分」
「だから脂っこいのか」
「うん。そんな急に真剣な声でいわれてもね?」
「大丈夫だよ。全部食べるから」
「それは良かった」
 というか、すごいマイペースだなぁ。「ところで」御真祖様は月餅を食べながら、話を続ける。
「今度、一族を全員呼んでパーティーしようと思うんだよね。来る?」
「うん、いいね。ちょうど良い息抜きになるし。行こうかな」
「んじゃ、決定ね。その日になったら迎えに行くから、よろ」
「うん、よろ」
 そういって、去って行った。(あの感じだと、また別のところに行くんだろうなぁ)帰る、って感じの足取りじゃなかったし。チュロスをもう一口食べる。(あっ)そういえば、聞きたいことがあったのに忘れていた。
(ルーマニア辺りの話、聞きたかったし)
 あと、最近スペースニンジャやらなんやら、素っ頓狂な漫画が出てきて、それが案外面白いこと。色々話したいことがあったのに、疲れで忘れてしまった。(まぁ、いっか)どうせ近いうちに会うことだろう。
 私も腰を上げて、屋根から降りた。とっとと報奨金を頂いてシンヨコに帰りたい。教会の長に掛け合ってお金を頂戴したあと、ホテルに戻って休んだ。さっさと帰りたい。


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