図書館で半田とかち合う

 とりあえず今週の原稿は終わったし、空いた時間にインプットをしよう。インプット──その名目で、図書館にきていた。流石新横、図書館の規模も伊達じゃない。流石にVRCほどの専門性はないけど、市民に優しく教えるシリーズとしては最適だ。優しいものから、ちょっと段階を踏んだものまで。入門書としては最適だろう。と『最適』を二回もいってみる。
(あの辺りは、ちょっと調べ直しても良さそうだし。もし間違えたら、後が怖い)
 個人的に、寝覚めも悪くなる。人類史に近い歴史のコーナーを探していたら、半田と出会った。向こうもこちらに気付いたのか「あっ」と驚いた顔をしている。そしていつもの凶悪そうな笑みに戻った。
「なんだ!? なまえも調べものに来ていたのかっ!? 奇遇だな! 俺も対ロナルド専用トラップの資料を探しにきていたところだ!」
「もう少し声のトーンを下げられる? 結構まだ大きいよ」
「おっと」
 注意したら声が小さくなった。この男、半田とはちょっとしたことから付き合いがある。それをいったら、ロナルドとカメ谷もそうだけど。まぁ、半田は休みなんだろう。仕事の服というより、私服に近い感じだった。
「で、セロリについて調べているのか? それなら農業のコーナーに行った方がいい。そっちの方が資料が豊富だ。逆にこのコーナーだと、セロリに触れられている項目が少ない。せいぜい、ヨーロッパ地中海沿岸付近の農耕について触れられた際に、ちょっと出たくらいだな」
「詳しいな!? どこまでセロリに詳しいんだよ」
「フンッ、トラップにも学があった方が悔しがるだろう!?」
「そうかなぁ。どちらかといえば、セロリそのものに発狂しそうな気が」
 そもそも、どうしてあの男は、あそこまでセロリが嫌いなんだろう。訳がわからない。まぁ、こちらは調べものをした身。セロリなんか目的の一つにも入らない。「で、貴様は非番なのか?」と半田が聞くので「微妙に違う」とだけ返しておいた。とりあえずフクマさんに出す原稿は終わったけど、気が抜いたら来週の原稿分が入るし、もしかしたら退治人組合から連絡があるかもしれないし。どっちにしろ、気の抜けない状況だ。「ただ、調べものをしに」と当初の目的を伝えておいた。
「ほう?」
「『吸血鬼と人間の関係性』をテーマにした論文だけど。なにか良さそうなのを知ってない? 近代的なのじゃなくて、できれは過去数百年の記録とか」
「むっ」
「人間が吸血鬼の魅力にかかったとか、そういう話じゃなくて。吸血鬼が人間に良好な感情を持つという、あっ」
 半田が機嫌を悪くした。しまった、そういえばコイツはダンピールだった。流石に不味い。もしかして、自分の家族がモデルにできないかと打算されていると、誤解している? それはヤバい。流石にそこまではできない。こっちがなにかをいう間もなく、カッと半田が目を開いた。
「俺の家族はやらんぞ!」
「知ってるよ。半田の家族じゃなくて、渡日した吸血鬼とか、そういう古い歴史を」
「むむっ」
「半田の家族以外の情報で」
「ぐぬぬ」
 どうするんだ、これ。半田がすごい顔で苦しそうに悩んでいる。「しかしな」「あれは外部の人間に渡すわけには」と言い出したので「いや、そこまでは求めてもいない」とだけ口を出すことにした。


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