サンプルを渡す仕事もある

 退治《ハント》の依頼が入っていないときは、なにも全員暇なわけじゃない。マリアは猟友会の仕事をしているし、ターチャンは実家らしい中華屋の手伝いで、サテツも同上。ショットは知らん。他は掛け持ちのバイトをしたり本業したりと様々だ。もちろん、私も例外じゃない。飛行機が必要なの以外はシンヨコを中心にして動くし、ちゃんと原稿もやる。ついでに新種の吸血鬼やらなにやらに対する対策や知識のインプットも怠らない。っつーか、検体の提出があった。
 保冷バッグを肩にかけて、VRCに向かう。正式名称は吸血鬼研究センター。職場環境と給料も良いこともあって、パートのおばちゃんたちの評価も高い。ちょうどパートのおばちゃんと会ったので、挨拶を返す。とりあえず、読んだ論文でわからないところも聞くか。所長室に入ると、いつもの太々しい態度が出迎えてきた。
「なんだ。愚物。呼んでもないのに入ってくるな。何の用事だ」
「検体の提供。サンプルが多い方がいいでしょ」
 ただでさえ、吸血鬼はわからないことだらけだ。長年人類の近くにいるというのに、人類の文明と同様進化の分岐を遂げているものもある。サンプルの入った保冷バッグを見せると、バッと無造作にぶんどってくる。お礼の一つもいえねーのか、お前は! 顔で不満を見せるものの、目の前の所長ヨモツザカは全く気に留めようもしない。なんつー不遜な男だ。保冷バッグの中身を見て「まぁまぁだな」と呟く。採取してから空いた期間は、いわない方がいいだろうな。うん。
「あとはサンプル採った吸血鬼の動き。レポートに纏めるの面倒だったから、これでよろしく」
「なんだ、文字にすら纏められないのか。不甲斐ないヤツだな」
「こっちは必死こいて格闘しているんだけど。動画撮ってただけでも有難いくらいなんじゃ?」
「フンッ」
 仰々しい態度だ。やはり礼の一つすらいおうとしない。ヨモツザカが動画をアップロードをしているのを見ながら、画面に出しっぱなしの論文を盗み見る。最新の情報を踏まえての内容に、作り直している。ちょっと読んでいたら、当の所長に手で追い払われた。
「さっさと帰れ」
「容赦ねー」
 そう茶化す半分でハッキリ伝えても、まったくノーダメージだった。


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