四天王の皆とクッキング(1年~2年冬)

 我ら四天王、といっても私はその補佐役だが。四天王といっても暇なときはある。
 皐月様はいつもの席で揃さんのお茶を飲んでるし、伊織先輩は寛いでいる皐月様の横で、裁縫部の報告を行っている。
 乃音先輩はクッションの海に体を埋めたまま指揮棒をクルクルと回して遊んでるし、犬牟田先輩はバーのカウンターでスマートフォンを弄っている。蟇郡先輩は腕を組みながら仁王立ちをしているし、猿投山先輩は我が物顔でソファに座りながらテーブルへ足を乗せている。
 そして私はといえば。
「千芳。なにかカクテルでも作るつもりかい?」
「いえ。ノンアルコールならば作りますけど?」
 バーテンダーの真似事をしていた。
 だって、やることないし。
 口を合わせた銀色のコップのようなものをコシャコシャ鳴らしてると、皐月様が興味を持った。
「ほう。どのくらい作れるんだ?」
「レシピに載っているものなら、とりあえずは。といっても」
 スッと銀色のコップみたいなものをカウンターに置く。
「所詮は素人の真似事ですから。プロの作るものには及びませんよ。はい、ミックスジュース」
「どうも」
「犬クンがおこちゃまのジュースを頼んでたわけ!?」
「はぁ」
「本当は珈琲とかがよかったんだけどね。目も思考力も冴えるし」
「一応視力にいいものは配合したんですけどね。ブルーベリージュースとカシスジュースを入れたり」
「あら! カシス入りなんてオシャレじゃない。アタシにも作ってちょうだいな」
「はいはい」
「じゃぁ、俺ニンジンジュース」
「俺は麦茶で頼む」
「なんというか、私が出す係になってません?」
 とはいえ、乃音先輩から猿投山先輩の注文を聞いてミキサーを取り出す私は、とても面倒見がいいと思う。甲斐甲斐しいというべきか。私、世話焼きなんだろうな、うん。
 口で使われていることに反論しつつも、ちゃっかり蟇郡先輩のためにコンロの火をつけている。
「じゃぁ、俺もなにか頼もうかな。珈琲でも」
「伊織先輩まで」
「なら、私は」
 え、皐月様までもですか?
「揃のお茶に合いそうなお茶菓子でも、頼もうかな」
 コトンと皐月様がティーカップを置いた途端、四天王全員の視線が皐月様へ向かった。
 口元を緩ませた皐月様が珍しかったのかもしれないし、皐月様に褒められたりしたかったのかもしれない。
 かくして、彼らの真意が掴めないまま、一緒に料理を始めることにした。

 バーカウンターに、ここまでの調理器具が揃っていたことに、驚きだけど。

 カウンター内の調理台に、ボウルと泡だて器、量りを出す。そして手持ちにある材料のチェックをしようとした。
「ふむ。小麦粉、卵、グラニュー糖。菓子作りに必要なものは、一通り揃っているようだな」
「料理部や家庭科室から強奪してきたのか? こんにゃくがないぞ。こんにゃくが!」
「猿の脳味噌はツルツルだって話、強ち嘘じゃなさそうねぇ。さっき千芳が使っていたジュースとかって、どこにあるのかしら?」
「ふぅん。アイスクリーマーなんて置いてあるのか。ガチで一通りの菓子は作れそうだね」
「そうですね。でも、皐月様を待たせることはできないし」
「そうよ! 皐月様を待たせるなんて、絶対に許さないわよ!! だから犬クン、さっさと作れそーなレシピ、探してちょーだい」
「やれやれ。蛇は相変わらず人使いが荒い。そちらが不安に思わずとも、既にデータはとってあるよ」
「おぉ! 流石は犬牟田!!」
「こんにゃく料理はあるか!? こんにゃく料理は!」
「紅茶の前提を忘れないでください、先輩」
 ガチで和風の方へ話を引き摺ろうとする猿投山先輩を制しつつ、犬牟田先輩の提示するレシピを待つ。
 犬牟田先輩は乱反射した眼鏡を少し指で上げたあと、スマホの画面を見せてくれた。あぁ、よく見たことのある画面だ。後ろで猿投山先輩が「あぁ、千芳がよく使う」と呟いた。
「いやぁ、ちょっと本能字学園と関係のないプライベートの線を使ってハッキングしたんだけどね。出てくる、よく出てくるよ。主婦の知恵というやつが」
「先輩。それ、一般家庭の人が使うやつですから。皐月様に食べてもらうんですよ? プロのレシピの方は」
「抜かりなく」
 キランと犬牟田先輩は眼鏡を反射させて、私に別のページを見せてくれた。
 そこもハッキングで侵入したんだろうか、と思ったけどグッというのを堪えた。さらにいうと、五つ星シェフのスマートフォンのメモ帳にハッキングして見つけたまかないもののレシピではないだろうか、ということもいわないでおいた。
 とりあえず、学生として作るものですし。皐月様に渡すのならば五つ星のものを、という気持ちはあるが技術が伴っていない。
 スッと腕を捲る。
「じゃぁ、『アイスボックスクッキー』とやらを、作ってみます? 見た目もいいし」
「うむ! 見た目も味も、皐月様に渡す分としては良いだろう! で、俺はなにをすればいいんだ?」
「あ、乃音先輩と犬牟田先輩はどうします?」
「えー? アタシ、卵とか割ってるからー」
「じゃ、俺は計量とかをしてようかな」
「そうですか。じゃ、バターの方を練るの、お願いできます?」
「う、うむ」
「おい、千芳! 俺のは!? 俺はなにをすればいいんだ!?」
「じゃ、私と一緒に準備をします?」
 正直いうと、猿投山先輩がいつこんにゃくを洋菓子に投入するのかということが不安でしょうがないし。
 計量器で一グラムの差分も許さない精密さで測った犬牟田先輩の小麦粉を、猿投山先輩に渡す。そしてそのまま、篩を渡す。
「うん? もしや、コレでこの白い粉をふるえってことか?」
「さすがこんにゃく御曹司。理解が早いですね」
「よ、よせよ。そう名乗るほどのもんでもないさ、俺は」
「猿クン、今のは馬鹿にされてんのよ。阿呆じゃないの」
「な、なんだとお!?」
「なぁ、千芳。一応アイスボックスクッキーにはプレーンタイプとココアを混ぜたやつがあるけど、君はいったいどっちのつもりで作っているんだ」
「あぁ、チョコレートの方ですね。多分、乃音先輩もそっちの方でやってると思うし」
「ふぅん」
「無視するな! おい!!」
「先輩、篩」
「あ、はい」
 こんにゃくを作った実家の仕事が染みついているんだろうか。先輩の手から零れた小麦粉を指摘したら、先輩は素直に仕事へ戻った。
 お母さんとかに注意された思い出でもあるのかな。私は乃音先輩に、クッキーの完成予想図を尋ねた。
「乃音先輩、一応、普通のとココアのを作って、タイル状のやつを作るんですよね?」
「えぇ?」
「こんなやつだよ」
「あぁ、そう。それそれ」
 助け舟を出した犬牟田先輩のスマホに、乃音先輩は頷く。皐月様との付き合いは、乃音先輩の方が遥かに長い。ので、皐月様に贈るものを考えるには、乃音先輩に聞いた方が確証が高い。
 乃音先輩はココアの生地を作る作業へ入ろうとしていた。
「レシピを見る限りだと、生地は二つ作るくらいなのよね? じゃぁ、バターも溶かさなきゃいけないじゃない!」
「ぬぅ。こっちはまだ溶けていないぞ!」
「やはり、室温に戻さない状態だと無理があったか」
「ならば! こんにゃく製造直伝の湯煎で溶かしてしまうのはどうだ!?」
「バターの油分が溶けてしまいます。詳しい説明は犬牟田先輩にぶん投げ」
「千芳がいっているのは『溶かしバター』の方だ。急激にバターを溶かすことによって油分と乳成分が分離し、風味と味が飛んでしまうデメリットがある。メリットは時短でバターを液状に変えられることだね。今回俺達が作る『アイスボックスクッキー』には全く適さないバターとなるから、猿投山渦のやり方だと確実に皐月様へ渡すクッキーの味が格段に落ちる! この事態を避けるためには常温にバターを溶かす作業が必要であり、この状態のバターを『常温バター』と」
「あぁ! もううっさいわねぇ!! 解説ばかりの口に小麦粉を突っ込むわよ!?」
「おっと、蛇崩総帥は本当に怖い。小麦粉を突っ込まれたら俺の喉がやられてしまうよ」
「あら? 小麦粉アレルギーなのかしら? だったら、余計に好都合ね!」
「死んでしまったら元も子もないんですけどね。仕方ない、蟇郡先輩が手袋をして手でバターを練ってもらうしかないですね」
「皮手袋でか!?」
「調理用のがあるんで」
「おい、千芳! 俺はなにをすればいいんだ!?」
「猿投山先輩も、蟇郡先輩と一緒にやればいいんじゃないかな」
 蟇郡先輩と一緒にやれば、恐らくこんにゃくを洋菓子に投入するなんていう奇天烈天外な真似はしないと思うし。蟇郡先輩の監視の目も光ると思うし。と思いながら、同じく用意されていたボウルと手袋を二人へ渡す。
「はい」
「これ、バターね」
「じゃ、二人ともよろしく」
「え」
 犬牟田先輩と乃音先輩のコンボに、猿投山先輩は返す言葉も見つからなかった。
 私が渡したボウルの中に、乃音先輩が落としたバターが入っており、犬牟田先輩は既に次の行程に入っている。
 私も準備があるので、ポンと猿投山先輩の肩を叩いておくだけにしておいた。
「じゃ、焼く準備も始めますので」
「お、おう!」
「おい、文月。バターを柔らかくしておいたぞ」
「さすが蟇郡先輩、早い。じゃ、次は砂糖と」
「アタシが用意したタマゴも忘れないでね!」
「と、一緒に練らないと」
「むぅ。またバターか」
「ちょっとガマくん! 砂糖が先だってこと忘れないでよね!!」
「じゃぁ、バターの方は蟇郡先輩と乃音先輩ということで、私は」
「終わったぞ!」
 蟇郡先輩がバターを掻き混ぜる役、乃音先輩が頃合い見て砂糖と卵を入れる役割と。綺麗に役割分担ができたので、オーブンの用意へ向かおうと思った。その先に、この声である。
 目を輝かせている猿投山先輩に振り向いた。
「えっと」
「このくらいの柔らかさでいいんだよな?」
「まぁ、そうですけど。砂糖」
「砂糖だな!」
 オーブンの用意をしようとした私の隣を陣取った猿投山先輩は、私に見えるようにボウルを置く。とりあえず、バター塗れの手袋を外そうよ。
「二回に分けて、ですよ。白っぽい黄色になると、美味しいんですよね」
「食べたのか!?」
「味見です」
「北海道のバターサンドとかも美味しいもんね」
 オーブンの鉄板の用意をしてたら、隣から形の整ったクッキングペーパーが流れてきた。
 流れてきた元を見ると、サッサッとゴムベラで粉類を混ぜ合わせている犬牟田先輩がいた。
 とりあえずお礼をいって鉄板の用意をする。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「北海道かぁ。木刀で熊を倒した思い出しかねぇな」
「どんな修学旅行を過ごしたか、手に取るようにわかるよ。して、他の材料は?」
「こっちは終わったわよ!」
「バターと卵と砂糖、今混ぜ終えた!!」
「こっちはまだだ!」
「ついでにココアの準備もまだですね」
 大声で主張する猿投山先輩に耳をやられながら、ココアパウダーを用意する。
 気の利く犬牟田先輩がココアの量を見せてくれる。それを参考にして粉を量り、篩にかける。
「あらぁ。手馴れているわねぇ」
「俺の弁当から食事まで作ってくれるからな!」
「うむ、いい嫁さんになるな」
「ありがとうございます」
「俺のな!」
「馬鹿猿がなにほざいてんだ」
 犬牟田先輩が猿投山先輩に毒吐くのってなんか珍しいな。乃音先輩ならともかく。
 と思いつつもココアの粉を篩い終える。あとは、どちらかの生地にココアを投入するだけだ。甘さは、別にいっか。
「できました? 猿投山先輩」
「あぁ! ここに、犬牟田サンが篩った粉を入れるんだよな?」
「そうそう、粉っぽさがなくなるように気を付けてくださいね」
「ちょっと犬クン、この生地を丸めなきゃいけないの!?」
「ふむ、この作業ならば得意だな。任せろ!」
「やれやれ。とりあえずタイマーでもセットしておこうかな」
 正直いうと、砂糖と卵とを混ぜたバターを一口食べたい気持ちはある。けど、皐月様に献上する手前だ。我慢しなければならない。
 グッと欲を堪えたあと、猿投山先輩の手元を見る。さすがはなんとか通といって動体視力の凄い人だ。ちょうどいい感じに生地が出来上がってくる。
「けど、洋菓子の生地に光の速さは無駄なんだよねぇ。風味が落ちるというか。ま、ただの例えなんだけどね、例え。比喩」
「んだと!?」
「乃音先輩、蟇郡先輩、使った道具を洗っておきますよ。ボウル、どこですか?」
「あらぁ? 千芳。アンタもしかして、ボウルに残った生地を摘まみ食いしようとか考えてない?」
「うぐぅ!? そ、そそ、そそんなわ、わわけ、ないじゃないですっきゃ!?」
「文月ぃ!! 皐月様が見ている手前でなにを考えておるか! 恥を知れ、恥をぉ!!」
「蟇郡先輩! 生地を早くに作らないと痛んじゃいますよ!」
「ぬおっ!?」
 てきぱきと二人から使った道具を回収したあと、蟇郡先輩の気を逸らして逃げる。
 それにしても、量が凄いな。ポテトチップス一袋分の量は作れるんじゃないだろうか。犬牟田先輩が噛みつく猿投山先輩を口先で勝っているし、本当四天王好き勝手だな!
 といいつつ、私も洗う手前でクッキーの生地をどさくさに紛れて一口食べるけど。うん、美味しい。



 チラリと皐月様の方を見ると、伊織先輩と揃さんとでなにか話していた。
「フッ、相変わらずだな。アイツらは」
「えぇ。貴方に差し上げるお茶菓子を作るために、五人で力を合わせるなんてことをしていますからね。本当に、忠義の厚い良い部下をお持ちで」
「それをいうならば、伊織。お前もだ」
「ハッ、勿体ないお言葉で」
 そういって、伊織先輩は右手を胸に当てて皐月様に頭を下げた。皐月様の方は、暇をしているわけではなさそうだな。


 とりあえず犬牟田先輩と猿投山先輩の間に腕をつっこんで、ボウルを奪う。
「うお!?」
「ちょっと、千芳。なにをしているんだい?」
「二人がモタモタするから。あともう少しじゃないですか。乃音先輩、蟇郡先輩。そっちにラップって余ってますかー?」
「あらぁ、千芳。お二人さんの邪魔をしてどうしたのー? ヤキモチかしら? うふふ」
「餅ですか? いそべやきでもあとから作ります? とりあえず、ラップ」
「ほら、文月」
「ありがとうございます、蟇郡先輩」
 ザッと最後にゴムベラで中の生地を混ぜ合わせたあと、均等な棒状の長さになるようにわける。
 蟇郡先輩が広げてくれたラップに、それぞれ並べて丸める。乃音先輩と蟇郡先輩が手伝ってくれたおかげで、ココアの分の生地も出来上がった。
「ふぅ。じゃ、これで冷蔵庫で」
「二十分寝かせるだけだね」
「長いわねぇ。ちょっと休憩しなーい?」
「千芳! なにか手伝えることはないか?」
「じゃ、片付けしましょうよ」
「いや、先に調理台を拭かなければ。生地を伸ばすんだろう?」
「あ、そうでした」
「まぁた分量外の粉が必要か」
 やれやれといいつつも犬牟田先輩は生地を伸ばす用意を始める。クッキーの生地を寝かせる二十分は長いようで短いのだ。
 テキパキと準備と片付けを始める彼らを見たあと、乃音先輩に尋ねる。
「なにか、飲みます?」
「さすが千芳! 気が利くわねぇ」
 喉が渇いているという予想はドンピシャだったのらしい。乃音先輩は喜んだ。
 とりあえずクランベリージュースを注いであげた。ついでに自分の分も。
 皐月様の方を見ると、揃さんのお茶を飲んでいる。
「早く作らないとなぁ」
「とはいっても、種を寝かせる時間・焼く時間を見積もっても軽く一時間はかかるのだけれどね」
「もっと早くに作れるやつにしとけばよかったかなぁ」
「マグカップに牛乳と卵注いで作れるケーキがあるらしいな!?」
「それ、インスタント食品じゃない!」
「皐月様になんてものを食べさせようとするんだ! お前はぁ!!」
「どわ!」
 さすがは四天王。蟇郡先輩渾身の注意を猿投山先輩は紙一重で避けた。髪の毛の先が軽く切れたっぽいけど。すごいな、ゲンコツの風圧。
 あとでマグカップで作るケーキ買おうと思いながら時計を見ると、二十分が過ぎようとしていた。
 タイマーが鳴る。
「お、種を休め終えたらしいね。じゃ、冷凍庫に移してっと」
「冷凍庫? どうして冷凍庫に移すんだってんだ、犬牟田サンよ」
「なにかしら理由があるのだろう。で、どのくらい冷凍庫にいれておくんだ?」
「さぁ。打ち粉とかの準備がし終わるまででいいんじゃないかな」
「適当だなぁ、オイ」
「話している間に、準備の方は終えましたけどね。型の方も」
「おぉ! こんにゃくの形があるじゃないか! こんにゃく形が!」
「いい加減こんにゃくから離れなさいよ! この馬鹿猿!!」
 色んな人から馬鹿猿呼ばわりされている猿投山先輩は、乃音先輩の毒舌も気にせず、クッキーの型へと向かった。
 プレーンな丸型と四角型に動物の形もあった。これは、誰かの趣味だろうか? それとも揃さんのお茶目なところだろうか。
 ぼんやりとオーブンの予熱を始めていたら、蟇郡先輩が全ての種を伸ばし終えていた。
「は、速い!」
「ふん、この蟇郡苛の手にかかれば、クッキーの種など赤子の手を捻るようなものだ」
「でも、金太郎飴のように作るから意味ないんだよねぇ。クッキーの型なんて」
「なんですって!?」
「なんだと!?」
「へぇー」
 あのスクエアの形にするならどうやって混ざるんだろうなと思ってたけど、金太郎飴方式で作るようだった。事実を受け止める私に対して、乃音先輩と猿投山先輩は随分とショックを受けているようだけど。
「乃音先輩、猿投山先輩、今度一緒に作りましょうよ。サッとできる形で」
「う、うぅ。皐月ちゃんに、アタシが作ったクッキーを食べさせてあげたかったのに……!」
「クソッ! こんにゃくの形がせっかくあるというのに、クッキーをこんにゃくの形にできないなど……!! 猿投山渦、一生の不覚っ!」
「先輩はいい加減、こんにゃくから離れよっか」
 さすがにツッコミきれない。
 膝をつく乃音先輩と猿投山先輩を元気づけていたら、ココアとプレーンのスクエア型アイスボックスクッキーが金太郎飴方式で出来上がっていた。
「ふむ、これくらいでいいか?」
「さすがは鉄工所の息子。棒状のものを均等に切ることも得意ってか」
「鉄工所を経営しているのは俺の叔父だ。して、オーブンの方は」
「あ、できた」
 蟇郡先輩がオーブンの方を見ると同時に、チンと予熱の終わった音が響いた。



 オーブンに全てのクッキーを入れたあとは、片付け以外にやることはない。それに淡々と片付けが終わったからそれ以上やることはない。犬牟田先輩達が見守っている中で、乃音先輩と一緒に皐月様に渡すラッピングを選んだ。
 そしてクッキーが焼き終わると同時にオーブンから出し、冷ましている間にサッと段取りを整える。
「皐月様」
 蟇郡先輩が膝をついて皐月様に声をかける。他の四天王の皆と同様、私も膝をついて頭を下げたまま皐月様の言葉を待つ。
「これ、私たち四天王が作ったクッキーです。どうぞお納めください」
 乃音先輩が私達が作ったクッキーを差し出す。乃音先輩の方が付き合い長いし、こういったのには適しているだろう。私は俯くだけで楽だし。
「お口に合えば幸いですが」
「ぜひ、ご笑味ください!」
「ココア味もあります」
「そうか」
 カツンとハイヒールの音が響くと同時に皐月様の気配が近付く。
 スッと乃音先輩の手にある袋が、皐月様の手に渡る音が聞こえた。
「それにしても、量が多いな。一人では食べきれないじゃないか。揃」
「ハッ」
 揃さんが動く音が聞こえる。
「五人分のお茶を頼む。お前らも食え、私一人では食べきれん。伊織、お前もだぞ」
「はぁ、わかりました。ところで、珈琲とかは」
「あ」
 伊織先輩の指摘に、私は忘れていた頼まれ事を思い出した。



 結局、珈琲と紅茶のセットで午後の三時を過ごすこととなった。


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